摘要 |
ア 農耕地における温室効果ガス発生抑制技術の定量的評価 1)温室効果ガス発生抑制技術の定量的評価 中干し期間の前倒し等の水田水管理によるCH4 発生抑制技術の実証試験を実施した。多くの地点ではCH4 発生量を効果的に削減できたが、中干し期間に降雨が多い場合や栽培期間後期にCH4 発生が集中する場合、削減できなかった。農耕地から発生する温室効果ガスのより正確な推定を可能とするため、可搬型自動サンプリング装置を開発した。2)温室効果ガス総合収支データベースの構築と広域予測モデルの開発 1985~2005 年の農業生産に伴う都道府県別窒素フローデータベースを完成した。N2O発生量をIPCC のTier 2手法により求めたところ、畜産セクタの家畜ふん尿処理に伴うN2O 発生が全体の発生量を強く制御していた。土地利用基盤整備基本調査のデータに基づき各土壌群の排水性の内訳を計算しデータベースを構築すると共に、地下水位によるCH4 発生量の変化を推定できるようにDNDC-Rice モデルを修正した。3)高CO2 濃度・温暖化環境が水田からのCH4 発生に及ぼす影響 開放系での大気CO2濃度上昇及び水温上昇実験を行い、前年同様、高水温による大きなCH4フラックス増大効果と、有意ではないが過去の試験と同程度の高CO2濃度によるCH4フラックス増大効果が観測された。イ 農業活動等に伴う炭素・窒素収支の広域評価手法の開発 1)土壌有機物動態モデルの広域検証と土壌炭素蓄積量変化の全国推定 土壌有機物動態モデルの信頼性の広域的評価とモデルパラメータの改良手法の開発のため、土壌環境基礎調査データ(実測値)とモデルによる土壌炭素蓄積量の推定値を比較した。モデルの妥当性を確認した。推計値は概ね妥当だった。土壌有機物動態モデルを全国の農耕地に適用し、堆肥や緑肥の投入による土壌炭素蓄積効果を見積もった。1990年時点での炭素蓄積量を初期値とし、堆肥投入シナリオ、水田二毛作シナリオ及びその併用シナリオについて、炭素蓄積量の変化を25 年間計算した。有機物未投入シナリオに比べて、堆肥シナリオでは3,200 万t、水田二毛作シナリオでは1,100 万t の蓄積炭素が増加した。2)窒素の広域循環及び環境への負荷の解明 穀物の単収増加により生産余力の見込まれる東南アジア5 カ国を対象に、穀物の単収変化や食料需要に関するシナリオの下に余剰農地を算定し、バイオ燃料生産可能量、窒素負荷量を見積もった。2030 年には現在の穀物作付面積の20%程度で3~4 千万kL のバイオ燃料の生産が可能と見積もられたが、窒素負荷量は800 万tN 程度に増大すること、余剰農地を生み出すための穀物単収増加とエネルギー作物生産のために、更に1.3~1.5倍の窒素負荷が生じることが予測された。ウ 土壌圏から水域への栄養塩類の流出動態の解明に基づく流域水質汚染リスク評価手法の開発 1)浅層地下水流動過程における脱窒による硝酸性窒素除去量の評価 地下水中NO3?の窒素及び酸素安定同位体比を用いて、台地上の畑地・樹園地と低地水田からなる集水域内の脱窒によるNO3?除去率を推定した。地下水中NO3?のほとんどは化学肥料由来NH4+の硝化により生成したものであること、調査対象地域では、85.1 kg-N ha?1 y?1 のNO3?が地下水に負荷され、うち22.8kg-N ha?1 y?1 が地下水中で脱窒により除去されることが推定された。2)表面流出及び下層土を通じた流出によるリンの水域への流出量の推定 傾斜枠を用いて表面流出水中のリン濃度及び流出水量を観測したところ、黒ボク土からの水流出率は黄色土に比べて小さく、流出リン濃度、リン負荷量とも黄色土の約1/10 以下であった。黄色土では堆肥施用により流出水量は低下したが、流出リン濃度は高まった。土壌カラムへの降雨浸入実験を行った結果、カラム流出水中の溶存態リン濃度は0.01 mg-P L?1と低く、下方流出リンの90%以上は懸濁態であった。 3)流域レベルでの栄養塩類による地下水・表面水汚染リスクの評価 熊本・栃木両県での営農情報に基づいた流域負荷窒素推定値と地下水硝酸性窒素濃度の関係を解析したところ、窒素ポテンシャル濃度(NPC)は、両県での地下水硝酸性窒素濃度観測値とよい対応を示さなかった。地下水硝酸性窒素濃度は対数正規分布を示し、NPC が増すにつれて任意の基準値(10 mg L?1)を超過する確率が増加した。地下水中硝酸性窒素濃度が10 mg L?1を超える確率とNPC との関係は両県で異なり、地域的要因の関与が示唆された。水辺域での浅層地下水中硝酸性窒素濃度の低下と土壌類型の関係に着目し、集水域(桜川上流)の浅層地下水中硝酸性窒素濃度の面的推定を試みた。
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