課題名 | ① 作物の物質生産・生長・分化・環境応答機構の解明 |
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課題番号 | 2014025636 |
研究機関名 |
農業生物資源研究所 |
研究分担 |
宮尾 光恵 石川 雅也 市川 裕章 井澤 毅 稲垣 言要 石丸 健 岩本 政雄 千徳 直樹 伊藤 博紀 村松 昌幸 |
協力分担関係 |
愛媛大学 |
研究期間 | 2011-2015 |
年度 | 2014 |
摘要 | 1. イネ属特有の代謝酵素、葉緑体型PEPCは、根から吸収したアンモニアの同化に重要な役割を担っている。本酵素は、フィードバック阻害剤(窒素同化、初期アミノ酸合成産物)に対する抵抗性が高く、窒素同化が活発な代謝環境で機能できるが、基質(PEP)に対する親和性が低い。三次元構造予測によりPEP親和性に関与する部位を特定し、アミノ酸残基の置換でPEP親和性を改良することに成功した。本改良型酵素の利用でイネの窒素同化能改良に結びつくと考えられる。 2. イネの細胞質型PEPCのひとつOsppc1は、進化系統学的に根型に分類される。他の細胞質型PEPC(C3型、C4植物のC4型)では詳細な研究がなされているが、根型PEPCの機能は未解明だった。Osppc1は、根では中心柱(維管束)と分枝根形成予定部位で、地上部では維管束と維管束連絡(横走維管束)で発現する維管束特異的なPEPCであること、根においては種子根、冠根の伸長に、地上部では子実の登熟に重要な役割を担うことが明らかにされた。 3. 植物に特異的な転写因子Dofをコードするイネ遺伝子RDD1は、その発現を抑制すると生育が阻害されることから、イネの生産性への関与が示唆されている。RDD1を高発現させると根圏の栄養素に対する感受性が高まり、標準濃度の栄養素存在下で生育が抑制されることを見いだした。肥料三要素のうち、窒素(アンモニア)、リン酸、カリウムのいずれを除いても生育抑制は大きく緩和されなかったことから、RDD1は肥料三要素の吸収に関与する可能性が示された。 4. 「コシヒカリ」背景の準同質遺伝子系統を用い、インド型イネ「カサラス」由来の千粒重を増大させる遺伝子TGW6が、食味官能試験における「総合評価」、「味」、「粘り」を維持したまま「外観」と「香り」を向上させ、「硬さ」を低く(歯ごたえを柔らかく)することを明らかにした。また、TGW6の高温登熟障害を軽減する効果は、出穂後15日間の平均気温が約29.5℃まで有効であることから、2010年のような記録的猛暑でない限り、国内の多くの地域で適用可能であることが示された。 5. 「コシヒカリ」とイネ野生種Oryza rufipogonの染色体断片置換系統群の選抜と戻し交配により、疎植で分げつを増やす野生イネ由来の染色体領域(266 kb)を特定した。この染色体領域をもつコシヒカリ系統では、疎植栽培時の穂数が2倍に、精玄米重が1.2倍に増大した。この系統は栄養生長期には著しく開帳するが、染色体断片置換系統でみられた生殖生長期の開帳が抑えられ茎が直立することから、本染色体領域は日本型イネの収量性向上に利用可能と考えられる。 6. 高CO2環境では、イネの成長が促進され収量も増大するが、光合成が抑制を受け、個葉の葉面積も縮小するため、期待されるほどには生産性は増大しない。これらの高CO2応答は窒素欠乏で引き起こされる現象と類似している。高CO2と窒素欠乏の効果を区別する実験で、光合成の抑制は窒素欠乏に起因すること、高CO2環境自体が新たに展開する葉身の面積を縮小させ、かつ葉身を厚くすることを見いだすとともに、高CO2環境が作用する葉の発達段階を特定した。高CO2環境の作用点の解析を進めることで、イネの高CO2応答の人為的解除に道が拓かれる。 |
カテゴリ | 肥料 抵抗性 良食味 |