タイトル |
オオモンシロチョウとモンシロチョウにおける蛹の体表炭化水素組成の差異と寒地適応性 |
担当機関 |
(独)農業・生物系特定産業技術研究機構 北海道農業研究センター |
研究期間 |
2000~2003 |
研究担当者 |
金子順一
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発行年度 |
2003 |
要約 |
休眠蛹・非休眠蛹間で体表炭化水素の厚さと組成を比較すると、オオモンシロチョウでは、それぞれ800nm、160nmで、組成は変わらず飽和度はともに高い。モンシロチョウでは、それぞれ195nm、11nmで、飽和度は休眠蛹で低く、オオモンシロチョウとは異なる。
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キーワード |
オオモンシロチョウ、モンシロチョウ、炭化水素、休眠蛹、クチクラ
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背景・ねらい |
オオモンシロチョウとモンシロチョウは北海道において重要なキャベツ害虫であり、両害虫に対する新しい被害軽減策として、生態系調和型の防除技術が求められている。これまで、両種の外観的特徴や、オオモンシロチョウの分布がより北に偏っていることが知られているが、寒地に適応するためのメカニズムや生態的特徴は明らかでない。そこで、両種の蛹の体表構造や炭化水素組成を調べ、寒地適応性機構の差異を明らかにする。
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成果の内容・特徴 |
- 体表炭化水素は、ヘキサンを用いて抽出し、コレステリルアセテートを内部標準として定量、スプリットレス注入法によるガスクロマトグラフ及びマススペクトルによる成分分析を行った。オオモンシロチョウでは、非休眠、休眠蛹とも体表炭化水素は飽和度が高く、ノナコサン、(C29:0)ヘントリアコンタン(C31:0)が主成分である。一方、モンシロチョウでは、非休眠蛹で飽和度が高くC29:0が主成分であるが、休眠蛹では飽和度が著しく低くなり主成分はヘントリアコンテン(C31:1)である(図1)。飽和度が低いと低温下での流動性が高く、体表を密に覆って水分消失を防ぐ能力が大きい可能性がある。
- 体重1g当たりの炭化水素含量は、休眠蛹では非休眠蛹よりもオオモンシロチョウで5倍、モンシロチョウで15倍多く(表1)、越冬時の水分消失防止に役立ち、休眠蛹の寒地適応性を大きくしていると考えられる。
- MRI(核磁気共鳴画像化法)により、蛹の横断面を1mm間隔で頭部から尾部まで連続して撮ることにより体表面積の近似値が以下の式で得られる。
体表面積(mm2)=Σ{外周の長さ(mm)} 体表面積と体重との間には正の相関があるが、オオモンシロチョウとモンシロチョウでは同じ体表面積に対する体重に差が見られる(図2)。すなわち、回帰式は、オオモンシロチョウの休眠蛹・非休眠蛹でそれぞれY=0.0018912X-0.17982、Y=0.0017929X-0.18329モンシロチョウでそれぞれY=0.0015858X-0.1003、Y=0.0014699X-0.10137である。その差とノナコサンの密度0.8083g/cm3をもとに、休眠蛹と非休眠蛹の体表炭化水素の平均の厚さは、オオモンシロチョウでそれぞれ800nm、160nm、モンシロチョウで195nm、11nmと算出できる。 - 0℃における休眠蛹の正常な羽化個体の割合はオオモンシロチョウの方がモンシロチョウよりも高い(表2)。3.で得られたオオモンシロチョウの厚い体表炭化水素が0℃時の水分消失を防ぐことにより、寒地適応性を高めていると考えられる。
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成果の活用面・留意点 |
- 体表炭化水素の厚さの近似値をMRIで算出する方法は、形の異なる蛹の間で実効炭化水素量を比較する際、また測定後生存していることを必要とする場合に特に意義がある。
- 休眠蛹と非休眠蛹との間に体表炭化水素組成・厚さに違いがあることが、昆虫で初めて明らかになり、昆虫の耐寒性研究の糸口となる。
- 休眠蛹と非休眠蛹において、体表炭化水素の組成と量を変えるタイプ(モンシロチョウ型)と量のみを変えるタイプ(オオモンシロチョウ型)とが明らかになり、寒地適応性機構の解明や地理的分布を研究する端緒となる。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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図表4 |
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カテゴリ |
病害虫
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寒地
キャベツ
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防除
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