タイトル |
過放牧が引き起こす砂漠化の微気象学的メカニズム |
担当機関 |
農業環境技術研究所 |
研究期間 |
1994~1994 |
研究担当者 |
原薗芳信
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発行年度 |
1995 |
要約 |
中国内モンゴル東部の半乾燥気候の草原で、ヒツジの放牧頭数を変えた放牧試験を行い、放牧強度の差異による草原の砂漠化過程を微気象の変化から調べた。過放牧により、草原植生量が減少するだけでなくヒツジの歩行数が増え、土壌が硬化した。硬い土壌は降雨の地下浸透を妨げ表面蒸発量を増大させ、植生の再生伸長を妨げた。
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背景・ねらい |
人口増大により食糧増産やエネルギー源確保が必須となり、発展途上国では、草原、森林の農耕地化や燃料確保のための木材資源の伐採が進行し、これらが地球環境に及ぼす影響が危惧されている。中国の半乾燥気候の草原では砂漠化が進行し続けており、砂漠化防止のためにそのメカニズムの解明が求められている。本研究では放牧強度の差異が草原の荒廃に及ぼす機構の解明を目的とする。
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成果の内容・特徴 |
- 1haあたりのヒツジ放牧頭数を、無放牧区0頭、弱放牧区2頭、中放牧区4頭、強放牧区6頭、として1992~1994年の5月上旬~9月下旬に放牧し、植物量、微気象の差異、ヒツジの生体重などを測定した。
- 放牧強度の増大に伴って草原植生の乾物量が減少し、餌(植物)を求めるヒツジの移動量・歩行数が多くなり、踏圧が増大し、土壌が硬くなった(表1)。
- 弱放牧区(8月5日の降雨62mm後)では日射に占める純放射の比Rn/Rsやアルベド(地表での日射の反射率)Adは降雨前後の変化が小さく、純放射の50%以上が顕熱として、20-30%が蒸発散(潜熱)として消費された。強放牧区(8月13日の降雨45.9mm後)では降雨直後にAdが25%以下に急減し純放射と蒸発散量の増大が生じた。降雨3日後の蒸発散量は4mm以上となり降雨が植生で利用されることなく蒸発した(図1)。
- 過放牧により植物量が減少することの他に微気象の変化も草原の砂漠化を助長した。すなわち、土壌硬化により降雨が地化浸透せず地表層に貯まり、アルベドの低下と日射吸収量増大をもたらし、土壌表層の降雨を蒸発させ地下水函養を減じた。
- 草原の過放牧による砂漠化過程は、植生の衰退、土壌硬化、降雨後の蒸発量増大と地化浸透の減少、根圏土壌水分環境の悪化、そして植生の伸長や再生の阻害という連鎖的な過程で進行することがわかった。
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成果の活用面・留意点 |
半乾燥地の草原における砂漠化と微気象の関係を解析したもので、現地での放牧管理に活用できる。日本のような湿潤地域では、結果をそのまま適用できない場合が多い。草原植生の変化については既報(農環研研究成果情報第11集)参照。
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図表1 |
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図表2 |
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カテゴリ |
乾燥
羊
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