タイトル |
植物ホルモンのアブシジン酸による遺伝子発現を制御する転写因子AREBを用いた環境ストレス耐性植物の作出 |
担当機関 |
(独)国際農林水産業研究センター |
研究期間 |
2001~2005 |
研究担当者 |
降旗敬
佐藤里絵
篠崎和子
中島一雄
藤田泰成
圓山恭之進
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発行年度 |
2005 |
要約 |
アブシジン酸による遺伝子発現を制御するシロイヌナズナの転写因子AREB1を改変することにより活性型に変換することに成功した。活性型AREB1を植物中で高発現すると、LEA タンパク質など数種の耐性遺伝子が高発現して植物の乾燥ストレス耐性が向上することを明らかにした。
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背景・ねらい |
アブシジン酸(ABA)は、種子の休眠、成熟過程で機能するとともに、乾燥や高塩濃度などの環境ストレス時に合成され重要な役割を果たしている植物ホルモンである。本研究では、ゲノム解析が進んでいるシロイヌナズナを用いて、乾燥ストレス耐性の獲得に重要な働きを示すABAによる遺伝子発現を制御する転写因子AREB1の解析を行った。AREB1はABA応答性シス因子ABREに結合するbZIP型転写因子であるが、植物中で高発現しても機能を示さず、ABAによるリン酸化などの活性化が必要であることが示されている。そこで、活性型のAREB1を得るため、AREB1に変異を加えてその活性をシロイヌナズナのプロトプラストを用いた一過的発現実験系で解析した。さらに、得られた活性型AREB1を植物中で高発現することで植物の乾燥ストレス耐性の向上を図った。
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成果の内容・特徴 |
- 遺伝子発現解析の結果から、主に3個のbZIP型転写因子(AREB1, AREB2, 及びABF3) が乾燥・塩ストレス時のシロイヌナズナの植物体中でABAによる遺伝子発現を制御していると考えられた。
- AREB1プロモーターをGUSリポーター遺伝子と結合して導入した形質転換植物を用いた解析から、AREB1遺伝子は根、維管束組織、排水組織で恒常的に発現しており、ストレス条件下ではすべての組織において発現していることが示された(図1)。
- 細胞化学的な解析により、AREB1タンパク質が核に局在していることを明らかにした。
- プロトプラストを用いた一過的発現実験系で、N末端領域が転写活性化に必要な領域であり、この領域とDNA結合領域とを結合すると活性型のAREB1に変換することを明らかにした(図2)。
- マイクロアレイ解析の結果から、活性型AREB1を過剰発現する形質転換植物は、ABA非存在下においても恒常的に標的遺伝子を発現していることが示された。これらの標的遺伝子は、シグナル伝達に関わる制御遺伝子群と細胞内水分ストレスに対する防御に関わるLEAタンパク質遺伝子群に大別された。
- 活性型AREB1発現植物はコントロール植物に比べてABAに対して高い感受性を示したが、AREB1機能欠損変異体はコントロール植物に比べてABAに対して低い感受性を示した。
- 活性型AREB1発現植物は、コントロール植物に比べて顕著な乾燥耐性能の向上がみられた(図3)。一方、AREB1機能欠損変異体はコントロール植物に比べて乾燥耐性能の低下が確認された。
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成果の活用面・留意点 |
- 活性型AREB1発現植物では顕著な乾燥耐性能の向上がみられたことから、乾燥ストレス耐性作物の開発のための有用遺伝子として利用を図ることができる。
- AREB1の相同遺伝子はイネ等の単子葉植物も含めた多岐にわたる作物種に存在していることから重要な遺伝子であると推測され、種々の作物で乾燥耐性作物の開発に利用できると考えられる。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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図表4 |
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図表5 |
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図表6 |
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カテゴリ |
乾燥
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