アラキドン酸による熱帯性魚類の種苗生産技術の改善

タイトル アラキドン酸による熱帯性魚類の種苗生産技術の改善
担当機関 (独)国際農林水産業研究センター
研究期間 2001~2005
研究担当者 Ashrah Suloma(エジプトカイロ大学)
Denny R. Chavez(フィリピン東南アジア漁業開発センター養殖部局)
Esteban S. Garibay(フィリピン東南アジア漁業開発センター養殖部局)
Kashfia Ahmed(バングラデッシュ)
Ving-Ching Chong(マレーシアマラヤ大学)
古板博文(養殖研)
尾形博
発行年度 2005
要約  アラキドン酸は熱帯性魚類において主要必須脂肪酸であり、飼餌料へ添加することで産卵成績や稚仔魚の生残率を改善し、安定した種苗生産に大きく貢献する。また、熱帯性魚類の親魚飼料の至適DHA:アラキドン酸比は少なくとも2、アラキドン酸:EPA比は3.5であることを新たに提案する。
背景・ねらい  発展途上国において養殖産業を普及するためには、良質で健康な種苗を安定して生産し地域住民に供給するシステムを確立することがまずもって大切である。しかし、種苗の生産・供給が未だに不安定なことが養殖産業の発展や普及の大きな障害となっており、安定した種苗生産を支える飼餌料開発が強く望まれている。ここでは、冷水性・温水性魚類とは異なる熱帯性魚類の栄養学的な特性を明らかにし、その特性に基づいた親魚及び稚仔魚飼餌料の開発を行う。
成果の内容・特徴
  1. 冷水性・温水性魚類と異なり、マングローブ域及びサンゴ礁域の魚類はエイコサペンタエンサン(EPA)含量が少なくアラキドン酸(ArA)含量が多い(図1)。種苗生産技術の確立における必須脂肪酸の重要性を鑑み、熱帯性魚類の種苗生産におけるアラキドン酸の有効性について調べる。
  2. 飼料にアラキドン酸を0.5%添加すると、ゴマフエダイの産卵回数、産卵数、正常仔魚率及び累積生存率が改善される(表1)。
  3. 飼料にアラキドン酸を0.75%添加すると、ゴマアイゴの産卵回数及び正常ふ化仔魚数が改善される。
  4. ゴマアイゴでは飼料にアラキドン酸を1.5%添加すると、ふ化仔魚が得られない。これはアラキドン酸の過剰投与による悪影響と考えられる。
  5. 稚仔魚の生物餌料であるシオミズツボワムシをアラキドン酸強化するにあたり、培養液中のアラキドン酸レベルが増加するとシオミズツボワムシのEPA、特にドコサヘキサエン酸(DHA)が減少する。
  6. アラキドン酸、EPA及びDHA相互のバランスを考慮すると、DHA強化飼料+5%アラキドン酸にて培養したシオミズツボワムシの必須脂肪酸バランスが最も優れている。
  7. ゴマアイゴ稚仔魚に、5%量のアラキドン酸を添加したDHA強化飼料で培養したシオミズツボワムシを給餌すると、成長に差はみられないが生残率を改善することができる(図2)。しかし、他の養殖魚と比較してゴマアイゴでは自然産卵の誘発が難しく、また稚魚の生残率が低いので改善を図る研究が必要である。
  8. フィリピン及び石垣島で採集したサンゴ礁域の魚類(ハタ類8種、フエダイ類4種、フエフキダイ類5種、アイゴ類3種及びベラ類1種)卵巣の分析結果から、サンゴ礁域に生息する魚類の親魚飼料の至適必須脂肪酸バランスとして、DHA:アラキドン酸比が約2、アラキドン酸:EPA比が3.5であることを提案する(表2)。

成果の活用面・留意点
  1. アラキドン酸が熱帯性魚類、特にサンゴ礁域魚類の種苗生産技術を改善する上で有効であることは明白であるが、使用するにあたってはDHAとのバランスに留意する必要がある。
  2. 提案された至適必須脂肪酸バランスはサンゴ礁域、いわゆる根付き魚を対象としたもので、新規養殖対象種として養殖技術の開発が望まれているものが多く、提案されたバランスの応用範囲は広い。ただし、熱帯性の回遊魚あるいは表層魚については別途解析する必要がある。

図表1 214651-1.pdf
図表2 214651-2.gif
図表3 214651-3.gif
図表4 214651-4.gif
図表5 214651-5.gif
図表6 214651-6.gif
図表7 214651-7.gif
図表8 214651-8.gif
図表9 214651-9.gif
カテゴリ ごま

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