農民のエンパワーメントによる技術開発手法

タイトル 農民のエンパワーメントによる技術開発手法
担当機関 (独)国際農林水産業研究センター
研究期間 2006~2010
研究担当者 小田正人
発行年度 2006
要約 技術の核となる知識を、知識伝達用の技術によって農民に伝え、農民がこの技術を改変することで実用技術を得るという技術開発様式を提案する。知識伝達用の技術に単純かつ不完全な技術を用いると、農民の改変余地が大きく、改変意欲を引き出せる。
背景・ねらい
  農民参加型研究は、農民の知識を活用した農民の主体性発揮による技術開発を目的としている。しかし、現在主流の選択モデル(技術メニュー・バスケット等)には、1)農民の優先事項を出発点とするため現状に束縛される傾向が強い、2)選択肢の増加は研究者の負担増となる、3)選択肢となる技術の存在が前提で新技術の開発には使用できない、4)農民の役割は選択にとどまっている等の問題が指摘される(図1)。そこで、これらの問題を克服する農民参加型の新技術開発手法を開発する。
成果の内容・特徴 1.発明モデル: 従来法では、農民の優先事項からの出発に農民の主体性の発揮がかかっていたが、本モデルでは、自由な改変が主体性の発揮の中心となるので、出発点の幅が広い。新技術の核となる知識を知識技術(知識伝達用の技術)として構築する。農民は知識技術の実施を通して総合的に新知識を習得し、自身の知識と発想を加えて改変することで実用技術を得る(図1)。なお、旧来の技術移転モデルでは技術の完成度の高さが重要とされたが、本モデルの場合は、知識技術に単純かつ不完全な技術を用いると、農民の改変余地を大きくし、発明意欲を引き出しやすい。
2.実施法(親子孫法): 研究者は手本として最低1区画で知識技術を実施する(親)。農民はこれを真似て自身の圃場で知識技術を実施する(子)。同時に各自の知識と発想を加えた試験区を作る(孫)。「子」・「孫」の数は各農民が受容能力や発想に応じて調整する(図2)。知識技術の要件は、「新知識」を伝え、「興味」を引き、「単純」で改変の余地が大きく、実施が「容易」、結果が「正確」に評価できることである。
3.実施例(東北タイ乾季野菜節水栽培技術開発): 節水栽培は、現状では野菜の生産量が小さく、優先事項ではないが、販売生産への道を開く可能性がある。研究者がプラスチックマルチを用いたトマトの節水栽培試験から図3の知識技術を構築し、10戸の農家がこの改変に取り組んだ結果、改変は44種類に及び(表1)、ねらい通り技術の創造過程(図1)が達成された。改変技術の95%は潅水回数が15回以下(栽培日数約110日)で、約半数が県平均収量を達成した。プラスチックマルチを使用せず、総灌水量5mm程度で標準収量を得た試験区も4区あった。評価集会で農民は、知識技術に用いられた資材は手近なもので代替できるとし、従来200回以上としていた最適潅水回数を30~45回でよいと結論した。これは、知識技術が伝達する知識が受けとられた証左といえる。ただし、試験データが示す節水レベルとは乖離があり、このことは農民にとって既成概念の枠を超えることの困難さを象徴している。すなわち、単なる自由改変ではなく、「親」・「子」を用いる実施法により、農民は自身の既成概念の枠を越える技術開発を達成できたといえる。
成果の活用面・留意点 1.技術開発ないし普及のための農民参加型の手法として多方面で活用できる。
2.開発された技術は個別性が高いため、普及に移す場合は適用性を研究者が判断し、場合によってはその技術を知識技術に再構築することが必要である。
図表1 214672-2.gif
図表2 214672-3.gif
図表3 214672-4.gif
図表4 214672-5.gif
カテゴリ 栽培技術 トマト

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