マレー半島マングローブ汽水域における餌料性甲殻類の生態特性

タイトル マレー半島マングローブ汽水域における餌料性甲殻類の生態特性
担当機関 (独)国際農林水産業研究センター
研究期間 2006~2011
研究担当者 CHEE P.-E.(マレーシア水産研究所)
SIOW Ryon
花村幸生
発行年度 2007
要約 半島マレーシア北西部の2ヶ所のマングローブ汽水域において、魚類の餌料として重要な小型甲殻類のアミ類(Mysida)及びアキアミ類(Acetes)の生態調査を実施し、種群構成、生物量、時空間分布など汽水生態系の生産構造や環境収容量の算出に欠/かせない生態特性に係わる基礎知見を得た。
背景・ねらい
 アキアミ類(Acetes)やアミ類(Mysida)などの小型甲殻類はマングローブ汽水域に生息する様々な魚類の主要餌料生物として低次生産と高次生産生物を繋ぐ重要な役割を担っている。他方、熱帯アジアのマングローブ汽水域において、これら小型甲殻類の生態に関して公表された成果はほとんど見あたらない。このため、マングローブ汽水域の生産構造の解明や環境収容量を算出するうえで大きな障壁となっている。以上の点を踏まえ、本研究では半島マレーシア北西部を代表するムルボックとマタンマングローブ(図1)において小型ソリネットを用いた周年採集を実施し、魚類の餌料として重要な表性甲殻類の種群構成、時空間分布と生物量を把握するための調査を実施した。さらに、マングローブ水域生態系に対する理解の深化を図るため、優占種の個体群動態並びに繁殖生態を精査した。
成果の内容・特徴
  1. 半島マレーシアのマングローブ汽水域の餌料性甲殻類として、アキアミ類(Acetes)3種及びアミ類(Rhopalophthalmus, Acanthomysis, Notoacanthomysis, Mesopodopsis に属する)6種の計9種が優占した。これら出現種の時・空間分布傾向は調査した二つのマングローブ間で大きな違いはなかった(図2)。
  2. 一方、餌料甲殻類の生物量はマングローブ間で差が認められ、調査の質・量が揃った亜潮間帯で比較すると、マタンマングローブのバイオマス(湿重量)はムルボックに比べおよそ5倍高い値を示した(p & 0.05)。また、マングローブ間で差が認められるものの、隣接海域にくらべて生物量は明らかに高く、「マングローブ汽水域が高い生産性をもつ」という一般概念の妥当性は餌料性甲殻類の生物量の面では支持される(表1)。
  3. 汽水を代表するMesopodopsis属アミ類の繁殖生態研究から、熱帯性アミ類は温・寒帯性種と異なり生活史の諸特性(成熟サイズ、抱卵数、卵サイズなど)に季節変動をもたないことが示されたほか、特に注目すべき点として、マングローブ汽水域を住処とする群は海域の個体群に比べて大型卵を少数産出し(体長7mmの雌の推定抱卵数は前者が8、後者が15)、その後の全生活史段階においても沿岸群より明らかに大型であるなど、異なる繁殖特性をもつことが明らかになった(図3)。
成果の活用面・留意点
  1. マングローブ汽水域の生物量データは今後開発を企図しているモデルのパラメーターとして利用可能である。同時に、環境の異なるマングローブの生物生産性を比較するうえで目安の数値として活用できる。
  2. これまで、熱帯性アミ類の個体群動態が詳細に研究された事例はない。本研究で得られた出現種各々の時空間分布に関するデータはマングローブ汽水域の生態研究の進展に貢献する。今後、未同定種の確定につとめることによって生態系モデルの精度向上にも繋がる。
  3. Mesopodopsis属が生息場所の違いによって繁殖特性に差が持つことが明示されたのはこれが最初で、またアミ類全体においても初めてと認識される。このことは今後、アミ類の環境適応や種分化機構の研究に大きく貢献するものと考えられる。
図表1 214704-1.gif
図表2 214704-2.pdf
図表3 214704-3.gif
図表4 214704-4.gif
図表5 214704-5.gif
図表6 214704-6.gif
図表7 214704-7.gif
図表8 214704-8.gif
図表9 214704-9.gif
カテゴリ 季節変動 繁殖性改善

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