寒地稲作においては農家の栽培経験に応じた冷害リスク情報の伝達が重要

タイトル 寒地稲作においては農家の栽培経験に応じた冷害リスク情報の伝達が重要
担当機関 (独)国際農林水産業研究センター
研究期間 2004~2008
研究担当者 矯江(黒龍江省農業科学院)
中本和夫
李寧輝(中国農業科学院農業経済与発展研究所)
発行年度 2008
要約 水稲栽培の歴史が比較的新しい中国黒龍江省においては、農家の冷害発生リスクに対する認識、さらには耐冷性品種の作付けという実際のリスク対応が十分に進んでいない。特に、栽培経験の浅い水稲作経営農家の持続的発展のためには、農家の栽培経験に応じた冷害リスク情報の伝達が重要になる。
背景・ねらい
 黒龍江省は中国最大のジャポニカ米生産地であるが、稲作発展の歴史は比較的新しいため、冷害発生が自らの経営に与える影響を充分に理解していない農家が多い。また、地球温暖化による平均気温の上昇によって、冷害発生リスクは稲作経営の持続的発展にとって大きな脅威ではなくなった、と考える農家もいる。こうした状況を踏まえ、水稲農家の冷害発生リスクに対する態度、そして耐冷性品種作付けという実際のリスク対応の状況を明らかにするため、2002年の障害型冷害発生によって大きな被害を受けた虎林市で、水稲栽培の普及時期が異なる4つの村を選定し、冷害発生の5年後に当たる2007年に調査(調査戸数:163戸)を実施した。
成果の内容・特徴
  1. 虎林市では、2002年に水稲単収が前年比46.5%にまで減少したが、この数値は、省全体として被害が深刻であった1969年、1971年、1976年、1981年の減少率を上回る。しかし、省の統計数値からは、2002年が深刻な冷害発生年とは判断できない。これは、近年、冷害発生のタイプが遅延型から局所発生的な障害型に変化したことと技術進歩にともない水田面積が省全域に拡大したことが大きく原因している(図1)。
  2. 水資源制約の厳しい黒龍江省では深水灌漑を実施することが難しく、耐冷性を有する水稲品種の作付けが有効な冷害対策となる。省内で栽培される主要な水稲品種47に対し耐冷性試験を実施したが、調査地域で栽培面積比率の高い3品種(墾稲12号、墾稲10号、空育131号)に関しては、平常年の収益が高い品種(墾稲12号、墾稲10号)で低温発生時の収益低下が大きかった(図2)。
  3. 2002年の冷害発生地域においては、そのとき減収幅が軽微であった空育131号の栽培面積が、次年度から大幅に増加したと言われている。しかし、調査農家の栽培品種を調べた結果では、空育131号を栽培する農家は7.4%にとどまった。また、品種選択の際に最も重視する点に対する回答でも、「耐冷性」とした農家はわずかに3%、「収量」と回答した39%、「耐病性」と回答した30%とは大きく差が開いた。
  4. 品種名を伏せて図2を調査農家に示し、自らが栽培を希望する水稲品種を選んでもらったところ、水稲栽培の歴史が短い農村の農家ほど、冷害発生にともなう収益変動リスクが高い品種を選ぶ傾向があった(図3)。また、農家は水稲品種ごとの耐冷性を充分に熟知していない中で、実際に栽培している水稲品種は、図3で選んだ栽培希望品種より、冷害発生による収益変動リスクが一段高い品種という結果になった(図4)。
  5. 以上の結果から、深刻な被害を受けた地域であっても、時間の経過とともに、農家の冷害発生リスクに対する警戒心は薄らいでしまう状況が明らかになった。また、冷害発生リスクへの理解、認識を深めるための情報伝達は、水稲栽培の歴史が短い農村で重点化する必要性が示された。そして、品種選択におけるリスク態度と実際の栽培品種に見られたギャップを埋めるためには、水稲の耐冷性に関する情報伝達と冷害リスクを考慮に入れた経営計画の策定が重要になることが示唆された。



成果の活用面・留意点
  •  耐冷性試験では、夏期の異常低温による障害型冷害の発生を想定し、15℃を4日間継続させた試験区と7日間継続させた試験区の2試験区で収量変化を調べたが、実際に農家が品種選択を行う際に活用できる情報とするためには、温度や低温継続時間をより細かく設定した試験を実施する必要がある。


図表1 214709-1.pdf
図表2 214709-2.gif
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図表9 214709-9.gif
カテゴリ 寒地 経営管理 水田 水稲 凍害 品種

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