植物の乾燥ストレス応答経路を負に制御する新規タンパク質の発見

タイトル 植物の乾燥ストレス応答経路を負に制御する新規タンパク質の発見
担当機関 (独)国際農林水産業研究センター
研究期間 2004~2011
研究担当者 溝井順哉
篠崎和子
秦 峰
発行年度 2008
要約 シロイヌナズナにおいて乾燥および高温ストレスに応答した耐性の獲得に寄与する転写因子DREB2Aと結合する新規タンパク質、DRIPを発見した。DRIPはDREB2Aの分解を促進することにより、乾燥ストレス応答を負に制御することを明らかにした。また、DRIPの機能欠損により乾燥ストレス耐性が向上することを示した。
背景・ねらい
 地球上の各地で環境劣化による農業被害が起きており、環境ストレスへの耐性を高めた植物の開発が待たれている。DREB2Aは乾燥や高温に応答して、これらのストレスへの耐性を高める遺伝子群の発現を活性化する転写因子で、その有用性が期待されている。シロイヌナズナのDREB2Aタンパク質は通常の生育条件では細胞内での安定性が低いが、ストレスシグナルを受けると安定性が高まって細胞核内に大量に蓄積して機能を発現する。一方で、通常の生育条件でも細胞内での安定性が高い改変型DREB2Aは、植物に導入すると通常の生育条件でも耐性遺伝子群の発現を活性化するが、その結果として植物の生育を遅延させる。したがって、シロイヌナズナはDREB2Aの安定性を制御することで耐性遺伝子群の発現をコントロールし、ストレスがない条件では十分に生育できるようにしていると考えられるが、その機構は不明であった。本研究ではDREB2Aの安定性制御機構を解明するため、DREB2Aと細胞内で結合するタンパク質の探索と機能解析を行い、環境ストレス耐性作物の分子育種のための有用な情報を得ることを目的とした。
成果の内容・特徴
  1. 出芽酵母のツーハイブリッドスクリーニング法を用い、DREB2Aと相互作用するタンパク質であるDRIP1(DREB2A INTERACTING PROTEIN1)を見出した。また、DRIP1は実際に細胞の核内でDREB2Aと相互作用することを確認した。
  2. DRIP1は、タンパク質を分解経路に運ぶ標識を付加するユビキチンリガーゼとして機能し、試験管内ではDREB2Aもその標的になることが確認された。このタンパク質分解経路を阻害する薬剤でシロイヌナズナを処理するとストレスのない条件下でもDREB2Aタンパク質が蓄積するため、DREB2Aはこの経路で分解されていると考えられた。
  3. DRIP1遺伝子の機能を恒常的に高めた形質転換シロイヌナズナにおいては、乾燥ストレスに応答したDREB2A下流遺伝子の発現が遅くなった。逆に、DRIP1および相同な遺伝子DRIP2の機能が共に失われた突然変異株drip1 drip2では乾燥ストレスに応答したDREB2A下流遺伝子の発現が強くなり、ストレスのない条件下でもDREB2A下流遺伝子が発現していた。さらにdrip1 drip2変異株は、野生型と比較して高い乾燥ストレス耐性を示した(図1)。
  4. 以上の結果からDRIP1はDREB2Aの分解を通じて乾燥ストレス応答を抑制していることが示された(図2)。これはDREB2Aを標的として分解を促進するタンパク質の最初の単離例である。
成果の活用面・留意点
  1. シロイヌナズナでは、DRIP遺伝子が失われると乾燥耐性が向上する。作物においても遺伝子操作により必要に応じてDRIPの機能を抑制することで、乾燥耐性を向上できる可能性がある。
  2. DRIPの機能が失われると、乾燥耐性は向上するが、同時に生育遅延や稔性の低下もおきる。これはDRIPがDREB2A以外のタンパク質の分解も促進しているためと考えられるが、遺伝子操作にあたっては、適切なプロモーターの選択等により必要な時だけ機能抑制が可能になるような工夫が必要であると考えられる。
図表1 214712-1.pdf
図表2 214712-2.gif
図表3 214712-3.gif
図表4 214712-4.gif
図表5 214712-5.gif
カテゴリ 育種 乾燥 薬剤

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