タイトル |
エアロビック・ライスの連作による収量漸減現象に非生物的要因が関与する |
担当機関 |
国際稲研究所 |
研究期間 |
2005~2010 |
研究担当者 |
佐々木由佳
宝川靖和
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発行年度 |
2008 |
要約 |
収量漸減現象が認められるエアロビック・ライス連作圃場からの採取土壌を用いたポット試験において、薬剤や熱処理によって生物的要因を排除してもイネの生育に有意な改善が見られないことから、この現象には非生物的要因が関与すると考えられる。
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背景・ねらい |
無代掻き、酸化的土壌条件、陸稲と比較した高収量を特徴とするエアロビック・ライス・システムは、国際稲研究所(IRRI、フィリピン)を中心に開発されている節水栽培体系であるが、連作障害がその普及の最大の障害となっている。これに対して主に病虫害の視点から検討されてきたが、それだけでは説明の困難な事例が散見される。IRRIの10作期に及ぶ連作圃場においても収量漸減現象が認められ、病虫害の影響とは異なる様相を呈しているが、そこに有意な非生物的要因が存在するのかどうか明らかでない。そこで、この連作障害に土壌由来の非生物的要因が関与しているとの仮説を立て、IRRI連作土壌を用いたポット試験によりこの仮説を検証した。
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成果の内容・特徴 |
- 2001年より年2作付け10作期を経過したIRRI圃場の水管理法のみ異なる以下の2試験区より、表層0.2m未攪乱土壌を内径0.2 mの塩ビ円筒で採取した。「連作土壌」:収量漸減現象(図1)の認められたエアロビック・ライス連作試験区(作付期に深度0.15 mの土壌水分張力が-30 kPa(開花期-10 kPa)に低下した際に50 mmの灌水);「非連作土壌」:減収の認められない非連作試験区(作付期常時湛水)。採土直後、塩ビ円筒をそのまま栽培ポットに加工し、以下の処理を各土壌に施した。[熱処理]:土壌試料中心部温度95-98℃で24時間処理;[薬剤処理]:移植7日後にカルボフラン(抗線虫剤)、ベノミール(抗真菌剤)を各3、1 mg施用。播種後14日の1株苗(品種:APO)を移植し、降雨を遮断した網室にて同一エアロビック・ライス環境下で栽培した(移植後12日間の湛水維持後、移植21日目より4日毎に450 mlの灌水; 移植1日前にN、P、K、Zn: 157、188、126、16 mg、移植33日目にN: 157 mg を施肥)。試験は全て4反復、施用量はポット当たり。
- ポット試験開始時の両土壌の主な特性(pH、有機炭素、全窒素、可給態リン、交換性カリ、CEC、土性)には、pH(連作区7.1±0.0、非連作区6.8±0.2(平均±標準偏差))、可給態リン(連作区29.7±1.5、非連作区24.0±1.0 mg kg-1)を除いて有意差(危険率5%)は認められず、圃場試験開始時には全項目で有意差がない。
- ポット内土壌水分および無機態窒素濃度(図2)には、連作土壌で生育に不利となる条件が認められない。
- 熱処理連作土壌では、土壌からの無機態窒素(図2)等の養分供給量の増加などによりイネの生育は促進されるが、無処理非連作土壌と比較して有意に低位水準である(図3)。連作障害の主因であると通常考えられている線虫・真菌類に有効な薬剤処理を施しても同様である(図3)。
- 以上から、エアロビック・ライスの連作障害には、土壌由来の非生物的要因が関与すると結論づけられる。
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成果の活用面・留意点 |
- エアロビック・ライス・システムの実用化のために、健全土壌の維持管理の観点からの研究が必要であることが示された。IRRIでこれまでに検討された微量要素(Ca, Mg, Mn, Mo, B, Zn, Cu, Fe)・リン酸・カリ以外の要素欠乏や、土壌中に存在する窒素(図2)等を吸収できない何らかの機作の存在する可能性、土壌物理性の変化の影響等の要因が否定できない。湛水管理の挿入により収量が復元傾向を示す現象等を手掛かりに要因を明らかにし、その回避策を提案することにより、本技術の現場への普及のためのブレークスルーが期待できる。
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図表1 |
214718-1.pdf |
図表2 |
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図表3 |
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図表4 |
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図表5 |
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図表6 |
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図表7 |
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図表8 |
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図表9 |
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図表10 |
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カテゴリ |
病害虫
加工
栽培体系
施肥
播種
品種
水管理
薬剤
陸稲
連作障害
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