タイトル | システインプロテアーゼインヒビター遺伝子を導入した害虫抵抗性組換えイネ |
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担当機関 | 上席研究官 |
研究期間 | 2000~2002 |
研究担当者 |
高橋明彦 黒田昌治 樋口博也 福本文良 |
発行年度 | 2002 |
要約 | トウモロコシ胚乳由来のシステインプロテアーゼインヒビター(シスタチン)遺伝子を導入した組換えイネ種子は、鞘翅目の貯穀害虫であるコクゾウに対する抵抗性を示す。 |
キーワード | システインプロテアーゼインヒビター、シスタチン、組換えイネ、コクゾウ、抵抗性 |
背景・ねらい | 農業害虫のうち、鞘翅目の害虫は、栽培されている作物ばかりでなく、貯蔵されている収穫物にも大きな被害を与える。これらに対する抵抗性作物の育成は、抵抗性付与に有効な遺伝資源系統に乏しいため、遺伝子組換えによる開発が期待されている。鞘翅目の害虫では、消化管にシステインプロテアーゼと呼ばれるタンパク質分解酵素を持ち、餌のタンパク質を消化するが、ヒトなどの高等動物ではこの酵素を利用していない。この点に着目し、システインプロテアーゼの働きを特異的に抑えるシステインプロテアーゼインヒビター(シスタチン)遺伝子をトウモロコシの胚乳から単離し、この遺伝子を導入することにより鞘翅目害虫抵抗性イネを作出する。 |
成果の内容・特徴 | 1. CaMV35Sプロモーター下に連結したトウモロコシシスタチン遺伝子を導入したイネでは、種子におけるシステインプロテアーゼ阻害活性が上昇する(図1)。 2. 組換えイネにおけるシスタチンの発現は、組換え後4世代進めても安定的に遺伝する。 3. 種子にコクゾウを放飼して産卵させ、その後、孵化してきた幼虫の発育経過を調査することで、抵抗性の検定ができる。放飼より3週間目の状態を観察すると、組換え種子の場合のほうが食害程度が少なく、種子内部にいる幼虫は小さい(図2)。 4. 羽化してきた個々の成虫について調査したところ、組換え種子の場合は、非組換え種子の場合と比較して、成虫の体重に有意差が認められないが、発育日数が有意に長くなり、実験区あたりの羽化成虫数は大きく減少する(表1)。 5. 以上のように、シスタチン遺伝子を導入したイネ種子では、コクゾウの発育が抑制されることから、害虫抵抗性が付与されている。 |
成果の活用面・留意点 | 1. 本成果は、イネとコクゾウをモデルとした害虫抵抗性付与の実施例であるが、手法は様々な他の作物にも応用することができる。その場合は、標的とする害虫の種類や、消化管におけるタンパク質分解酵素の種類に留意する必要がある。 2. シスタチンと同様の活性を持つ市販インヒビター(E-64)を塗布したイネの葉を用いて飼育を行うと、イネの葉を食害するイネドロオイムシの発育が抑制されることを確認している。シスタチン遺伝子を葉で高発現させることにより、イネドロオイムシに対する抵抗性の付与も期待できる。 3. シスタチンは、トウモロコシ胚乳をはじめとして、様々な食物に含まれるタンパク質であり、日常的に摂取している。また、食品アレルゲンとしての報告例はない。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
カテゴリ | 遺伝資源 害虫 抵抗性 とうもろこし |