タイトル | グリセリンとショ糖の混合液を凍結媒液に用いた牛凍結胚直接移植法 |
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担当機関 | 長野畜試 |
研究期間 | 2004~2006 |
研究担当者 |
大久保吉啓 大脇直人 |
発行年度 | 2007 |
要約 | 牛胚移植において、20%子牛血清加PBSの基礎培地に、1.36Mグリセリンと0.25Mショ糖を溶解した混合液を凍結媒液として形態ランクAおよびAーの胚を凍結し、融解後に直接移植できる。 |
キーワード | 牛、胚移植、グリセリンとショ糖、凍結媒液、直接移植 |
背景・ねらい | 牛の胚移植技術の普及定着には、農家現場で簡易に融解・移植でき、受胎率の高い胚の凍結保存技術が不可欠である。農林水産省の発表では国内の牛体内受精胚移植における受胎率は凍結胚で45%と新鮮胚よりも5%低い。現在、広く普及した緩慢凍結技術には未だ改善の余地があると考えられる。そこで、凍害保護物質として毒性・刺激性がほとんどなく、また古くから医薬品・化粧品の材料として広く用いられているグリセリンとショ糖の混合液を凍結媒液に用いた牛胚の直接移植法を検討する。 |
成果の内容・特徴 | 1. 胚の凍害保護物質として、多価アルコールで毒性のほとんどないグリセリンおよび糖類で細胞膜不透過性のショ糖を選択する。 2. 凍結媒液の組成は1.36Mグリセリン・0.25Mショ糖・20%v/v子牛血清加PBSである(以下、20%v/v子牛血清加PBSをPBSと略)。 3. ストロー内溶液の構成は、凍害保護物質の子宮内膜に対する化学的感作を少なくし、また溶液への植氷を確実に完了させるため、図1に示すとおり胚が存在する液の層を中心に小さく3層とし、前後に移植液のPBSまたは希釈液である0.25Mショ糖PBSの各液層を大きく設ける。 4. 牛胚は過剰排卵処理後の人工授精後7日目に採取した体内受精胚のうち形態学的品質ランクがA~Bの胚を供試する。凍結媒液による胚への急激な浸透圧ショックを防止するため、PBSから1.36Mグリセリン+PBSに移して凍結媒液への予備平衡を10分間行い、その後、さらに凍結媒液中で10分間の平衡を行う。胚が収縮したことを確認し、ストローに吸引・封入する。 5. 凍結はプログラムフリーザーを用いて行う。胚の入ったストローを-6℃のアルコール槽に浸漬し、2分後に植氷して、その後8分間保持する。冷却速度を-0.3℃/分とし、-25℃まで冷却する。-25℃で10分間保持し、液体窒素に投入して凍結保存する。 6. 移植現場において、ストローを10秒間空気中で曝露後、30~35℃の微温湯に浸漬して融解し、その場で直ちに移植器に装着して子宮内に移植する。 7. AおよびAーランク胚では、ストローに充填した溶液がPBSあるいは0.25Mショ糖PBSの受胎率は、各々60.0 と66.7%で差がみられず、本凍結媒液による受胎率は65.0%と良好である(表1)。一方、Bランク胚の受胎率は、28.6%と低い(表2)。 |
成果の活用面・留意点 | 1. 形態学的品質ランクBの胚は、受胎率が低いので本法による直接移植は避け、融解後に培養を行うなど、生存性を確認してから移植に供する(表2)。 2. 移植する受胚牛の選定は、発情後の日数と胚の発育ステージとの同調、黄体形成の確認等を遵守して行う。 3. 供試胚の発育ステージは全て後期桑実胚と初期胚盤胞であり、胚盤胞と拡張胚盤胞については検討していない。 4. 胚の融解・移植は技術に習熟した家畜人工授精師(牛体内受精卵移植)あるいは獣医師が行う。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
カテゴリ | 受精卵移植 凍害 |