近赤外吸収スペクトルによる水の分子動態解析

タイトル 近赤外吸収スペクトルによる水の分子動態解析
研究期間 1996~1996
研究担当者 阿部英幸
河野澄夫
草間豊子
発行年度 1996
要約 水の近赤外吸収スペクトルが水素結合状態の異なる水分子の吸収帯の重ね合わせであることを明らかにし、生体関連物質との相互作用に伴う水の状態変化を解析するための知見を得た。
背景・ねらい  
生体の主要成分であり、また多様な生体内化学反応に関係する水は、化学式では単純な構造である。しかし、物理化学的には、他の溶媒に見られない特異的な物性を示す。このため、生体内での化学反応における水の役割を理解することは、生命活動の本質を知る上で重要な課題であり、生体関連物質と水の相互作用を分析する手法の確立が望まれている。そこで、本研究では近赤外領域に観察される水の吸収スペクトルの解析手法を確立するとともに、数種の生体関連物質と水との相互作用の解析を行うことを目的とした。
成果の内容・特徴
  1.  水素結合状態の異なる水分子に帰属される複数の吸収帯の重なりと考えられる、0.96μm近傍に吸収ピークを持つ水の近赤外吸収スペクトル(図1)について、水の水素結合数および平均水素結合エネルギーを定量する解析手法を開発した。これにより、定量的な説明が困難であった氷の融解熱および水の蒸発熱を水の水素結合状態変化から説明が可能であった(図2)。また、吸収強度(吸収帯の面積)がほぼ絶対温度に比例し、かつ水の定圧比熱における水素結合の寄与を除いた比熱は絶対温度に比例すると考えられることから、水の吸収強度変化から水分子の運動状態変化を推定することが可能と考えられた。
  2.  メタノール、エタノールおよびDMSO(ジメチルスルホキシド)を水に溶解した場合、試料温度が一定の条件においても、溶質の濃度にほぼ比例して水の水素結合数は増加した。逆にアセトニトリルでは水の水素結合数は減少した(図3)。これらの変化は、水素結合数から推定した水の温度と吸収強度から推定した水の温度が一致することから、温度一定の条件でありながら水の温度を変化させた状態とほぼ同一であると考えられた。この結果から、溶液内における生体関連物質のエネルギー状態、およびこれまで物理化学的な説明が困難であった混合熱の発生を水の水素結合状態変化から解析が可能であると推察された。
成果の活用面・留意点 本研究で確立した解析方法は、吸収スペクトルの解析方法であり分光装置に依存しないため、生体関連物質の溶解による水の状態変化を計測するための汎用的な方法である。今後、
  1.  水の分子運動に係わる比熱が絶対温度に比例することの物理的解釈。
  2.  溶質の種類によって変化する水素結合状態変化と水の空間的構造の関係。
  3.  溶液内におけるエネルギー分布の不均衡についての解明がなされる。
図表1 224450-1.gif
図表2 224450-2.gif
図表3 224450-3.gif
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