タイトル |
温暖化時における自然植生がもつ純一次生産力とその季節変化 |
担当機関 |
農業環境技術研究所 |
研究期間 |
1990~1995 |
研究担当者 |
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発行年度 |
1996 |
要約 |
温暖化にともなう植物生産力の季節変化を,気候シナリオと,現在の気候と植物生産力との関係を用いて予測した。従来から予測されているように,温暖化時における純一次生産力の年積算値は増加するが,夏季に注目すると,中国地方,四国地方南部,東海地方で減少することが予測された。
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背景・ねらい |
人間活動による大気中の温暖化ガス濃度の上昇と,それにともなって地球規模で進行する温暖化は,作物の生産に様々な影響を与えることが予想されている。この研究では,温暖化条件下での気候を予想した気候シナリオと,現在の気候と自然植生がもつ生産力との関係を用いることによって,温暖化による植物の生産力への影響を解明することを目的とする。
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成果の内容・特徴 |
- 現在の気候と植物(森林)の生産力との関係から,自然植生がもつ純一次生産力(NPP)を評価するモデルを開発した。このモデルでは,NPP=GPP-R ,とする。ここで,GPPは総生産力であり,気温と蒸発散量の関数で表す。大気中の二酸化炭素の濃度が増加することによる植物生産力への影響は,GPPを決定する過程で考慮した。また,Rは呼吸量で,温度の関数であり,「温度が10℃上昇するごとに,呼吸量は2倍になる」という仮定を用いた。さらに,このモデルでは気温,蒸発散量などの入力データが月毎に得られるので,純一次生産力を月毎に評価でき,季節変化を明らかにすることができる。
- ここで開発した純一次生産力を評価するモデルと局地的気候変化シナリオを用いて,温暖化時におけるわが国の純一次生産力とその季節変化を明らかにした。ここで,局地的気候変化シナリオとは,アメリカゴッタード宇宙研究所(GISS),アメリカ流体力学研究所(GFDL),そしてイギリス気象局(UKMO)が開発した大気大循環モデルが予測する結果(温暖化シナリオ)をもとに作成された,2次メッシュ(10km×10km)スケールの予測結果である。
- 温暖化による純一次生産力の年積算値は,それぞれの局地的気候変化シナリオによってその変化に差があるものの,全地域においても増加することが予測された(表1)。しかし,盛夏期である7月,8月についてみると,どのシナリオに関しても増加する地域と減少する地域が出現する。このうち,GFDLのシナリオを用いた結果では,GISSとUKMOによるシナリオと比較して,純一次生産力の増加が大きく,減少する地域の割合が小さい。
- GFDLによるシナリオを用いて明らかになった純一次生産力の変化の分布を見ると,純一次生産力の年積算値は,年平均気温が4℃以上上昇する東北地方から北海道地方で約20%ほど増加する。これに対して,7月と8月の合計値は,7月と8月の平均気温が3.5℃以上上昇する中国地方,四国地方南部,東海地方で純一次生産力は減少し,その変化は10~15%に及ぶ(図1)。このように,盛夏期において温暖化により純一次生産力が減少するのは,気温の上昇による呼吸量の増大など,高温によるストレスが主な原因と考えられる。
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成果の活用面・留意点 |
[成果の活用面と留意点]
- 純一次生産力と作物収量との関係を明らかにすることができる。
- 本成果は,気候変化のみの影響を評価したものであり,温暖化による雑草や病害虫の効果,土壌劣化の効果,植生分布が変化する効果は考慮に入れていない。
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図表1 |
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図表2 |
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カテゴリ |
病害虫
害虫
雑草
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