タイトル |
水田からのジメチルサルファイド(CH3SCH3)フラックスの季節変化と発生量 |
担当機関 |
農業環境技術研究所 |
研究期間 |
1995~1995 |
研究担当者 |
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発行年度 |
1997 |
要約 |
水田からのDMSフラックスは水稲の生長に伴い増加し,出穂前後に最大となり,その後老化とともに低下する季節変化を示した。土壌水中にはDMSはほとんど存在しないため,水田から放出されるDMSは水稲体内で生合成されたものと考えられた。なお,水稲生育期間中の水田からのDMS発生量は約5mg/m2 と少なかった。
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背景・ねらい |
水田は温室効果ガスであるメタンばかりでなく,ジメチルサルファイド(CH3SCH3,以後DMS)や硫化水素(H2S)などの含硫ガスの発生源でもある。大気中に放出された含硫ガスは,SO2 や硫酸イオンに酸化され,酸性雨の原因物質となる。なお,磯の匂いは主としてDMSであり,生物起源のDMSの発生は大部分が海洋のプランクトンや藻類に由来することが知られている。しかし,陸上生態系からの発生量の測定は少なく,世界のDMS発生量評価において不確かな部分がある。 そこで,水田から大気へのDMSフラックス(単位面積あたりの放出速度)の日変化や季節変化を明らかにするとともに,DMS放出機構及び耕作期間中のDMSの発生量を評価した。
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成果の内容・特徴 |
- DMSフラックスは日の出とともに増加し始め,12時前後にピークを示し,その後低下し,夜間にはほぼ一定値となる日変化をした。なお,夜間のフラックスはピーク時の約0.3倍であった。
- 水稲体からのDMSの発生は生育中期及び後期に多かった。また,DMSフラックスは水稲の生育に伴い増加し,出穂期頃に最大ピーク(15μg/m2h)となり,その後老化とともに低下する季節変化を示した(図1)。なお,水稲生育初期には田面水からDMSが放出されるが,これは田面水中に生育する藻類から放出されたものと推測された。
- 土壌水中の含硫ガス成分としては,硫化水素が最も濃度が高く(最高濃度は30ng/ml),二硫化炭素(CS2)とメチルメルカプタン(CH3SH)は極めて低かった(0.5~1.0ng/ml)。DMSにいたってはほとんど検出できなかった(図2)。
- 土壌水中にはDMSはほとんど存在しないことから,水田から大気中に放出されるDMSは水稲体内で生合成され(田面水中の藻類由来のDMSは除く),そのDMSが大気中に放出されていることが示された。一方,海洋中の植物プランクトンや藻類由来のDMSでは,DMSの前駆物質がそれら体内で生成され,その一部が枯死や捕食などによって海洋中に負荷される。その一部が微生物によって分解され,その際にDMSが生成される。DMSは不溶性のため,その一部が大気に放出されると考えられている。
- 水田の湛水開始から収穫時までのDMS全発生量は5.0mg/m2 程度であった。水田からのDMSの発生量は,アメリカ等で測定された湖沼・湿地からの発生量の100分の1程度と著しく少ないことがわかった。
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成果の活用面・留意点 |
DMSに関してはその削減対策を求められるような重大な局面に直面していない段階と考えられる。
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図表1 |
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図表2 |
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カテゴリ |
水田
水稲
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