里山地域における植物相保全を目的とした管理対象地の選定指針

タイトル 里山地域における植物相保全を目的とした管理対象地の選定指針
担当機関 農業環境技術研究所
研究期間 2000~2000
研究担当者
発行年度 2000
要約  岩手県西和賀地域,埼玉県比企地域を対象に農林畜産業衰退にともなう景域構造変動が里山の植物相に及ぼす影響を調査した。その結果,林野利用履歴が現在の植物相に強く影響し,現行管理はアクセス性に規定されていることから,里山管理対象地の選定には過去の管理履歴と対象地へのアクセス性の確保が重要な要件であることを示した。
背景・ねらい  農林地の二次的自然と結びついた植物相の保全を図るためには,農村環境の変動が植物相に及ぼす影響に基づいて,継続的な管理を行なう対象地の選定を適切にする必要がある。ここでは,農村環境の全体像を景域構造としてとらえ,農林畜産業の衰退に伴う景域構造の変動が農山村の里山における植物種群の生育に及ぼす影響を,農林地管理との関係から検討する。
成果の内容・特徴
  1. 氷見山らの2kmメッシュ土地利用データを用い1950年頃から1985年頃にかけての景域構造変動様式を郡単位で解析し,変化前の土地利用面積率と変化期間中の面積率の変量を用いたクラスタ分析により6タイプに区分した。そのうちaタイプ(奥山の広葉樹林が多く,針葉樹林化)から岩手県西和賀地域,bタイプ(1950年頃針葉樹林が多く,変化が少ない)から埼玉県比企地域を調査地域として選定した。a,bで全国の76.5%を占める(図1)。
  2. 西和賀地域では,農耕地・民有林の管理状況と,管理された里山林と強く結びついた指標植物種群(カタクリ,キクザキイチゲ等の春植物)の生育状況,1947年空中写真に基づく過去の林野利用を調査した。その結果,現在の里山林管理は農道,未放棄水田等に隣接したアクセス性の高い場所に多く里山林の多くは放置されていること,現在アクセス性の高い場所は過去における過度の採草地利用により春植物群の生育が阻害されていることから,現在の里山林管理は春植物群の生育に寄与していないことが明らかとなった(図2-A)。
  3. 埼玉県比企地域では,1947年空中写真判読による景域構造の変動解析,農耕地・民有林の管理状況の踏査と森林植生の植物社会学的調査を行った。その結果,過去に草原性植物相が成立していた採草地や松林は現在放置されているため林床植物種数が少ないこと,現行管理はアクセス性の高い場所にあるスギ・ヒノキ林で行われているため二次草原(ススキ草原など)に特徴的な植物群の生育には寄与していないことが明らかとなった(図2-B)。
    両調査地域では,過去の林野利用(とくに採草地利用)が現在の植物相に強く影響していること,現行管理がアクセス性に規定されていることが共通していた。よって,里山地域の植物相保全には,過去の管理履歴とに基づいた里山林管理の対象地選定と,アクセス性確保という視点から対象里山林に隣接した農耕地等の一体的な管理が重要であることが示された。
成果の活用面・留意点
  1. 本研究の成果は,過去の管理履歴が植物相に及ぼす影響に基づく農林地管理対象地の選定や,管理促進のためのアクセス性確保など,環境管理上の空間計画策定に活用できる。
  2. 実際の計画策定に際しては,林床以外の植物相や動物相についても検討する必要がある。
図表1 225294-1.jpg
図表2 225294-2.jpg
カテゴリ くり 植物相 水田

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