タイトル |
害虫の侵入定着を防止し所定の安全レベルを達成するための植物検疫強度の推定法 |
担当機関 |
(独)農業環境技術研究所 |
研究期間 |
2001~2005 |
研究担当者 |
山村光司
勝又肇(横浜植物防疫所)
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発行年度 |
2001 |
要約 |
繁殖可能な害虫の国内への侵入確率の推定式,及び侵入確率を所定のレベル以下に低下させるのに必要なサンプリング検査と検疫処理の組み合わせを決定するための式を導いた。これらの式と害虫の定着確率から,所定の安全レベルを達成するために必要な検疫強度を推定できる。
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背景・ねらい |
わが国の輸入植物検疫における貨物の荷口検査のサンプリング法は,山村・杉本(1995)の統計的理論に基づいて構築されている。一方,最近では,国際的に害虫の侵入防止のために,侵入定着の危険度分析(Pest Risk Analysis)に基づいて検疫強度を定める動きがあるが,その理論的根拠は必ずしも明確ではない。このため,各種害虫の侵入確率を的確に推定し,所定の安全レベルを達成するための検疫強度を理論的根拠に基づいて新たに算出し直すことが必要とされている。
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成果の内容・特徴 |
- ある荷口を通じて害虫が港を通過する確率(荷口当たり侵入確率:P1)は,害虫の生殖および分布の様式によって変化する。有性生殖害虫は交尾を行う必要があるため無性生殖害虫よりも侵入の可能性は低い。但し,その場合でも,コロニーを作って生活する害虫は交尾を行いやすいために侵入の可能性は高くなる。このため,以下の4つのタイプに害虫を分けて推定式を導いた:(1) 有性生殖,コロニー性,(2) 有性生殖,単独性,(3) 無性生殖,コロニー性,(4) 無性生殖,単独性。
- 侵入確率の推定式を構築する際に,まず雌率は一定であると仮定し,1コロニー内の個体数の頻度分布は対数分布に近似的に従い,寄生率は荷口の輸出元によって大きく異なることから,輸出元における寄生率が近似的にガンマ分布に従うと仮定した。これらの仮定から侵入確率の推定式を導くと同時に,これらの分布のパラメーターを推定するための最尤推定法も同時に導いた(式は省略:下記論文参照)。
- 植物検疫では害虫の侵入を抑制するために,サンプリング検査と検疫処理(燻蒸など)が行われる。侵入確率の推定式にこれら二つの手段の効果を組み込み,これらの手段によって害虫の侵入確率がどの程度低下するかを推定するための式を導いた。例として,この推定式をグレープフルーツを通じたメキシコミバエ(有性生殖,コロニー性)の侵入確率に適用した(下記論文参照)。
- 害虫の侵入定着に対して所定の安全レベルを達成するために必要なサンプル率と検疫処理の組み合わせ(検疫強度)を簡易に分かるように図示した(図1)。
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成果の活用面・留意点 |
- 今後,植物検疫において,害虫の侵入危険度分析に基づいて検疫強度の決定を行おうとする場合には,その理論的根拠として活用できる。
- 害虫の侵入確率を求める式のパラメーターを正確に推定するためには,輸出直前の荷口のサンプル調査データを用いて害虫ごとに最尤推定を行う必要がある。
- 定着確率を正確に計算するためには,港を通過した後における害虫の生殖・分布様式,寄主植物との遭遇確率などの要因を考慮し,個別に推定する必要がある。
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図表1 |
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カテゴリ |
害虫
グレープフルーツ
植物検疫
繁殖性改善
輸出
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