タイトル |
スキムミルクを用いた黒ボク土からのDNA抽出法 |
担当機関 |
(独)農業環境技術研究所 |
研究期間 |
2001~2005 |
研究担当者 |
岡部郁子
松本直幸
星野(高田)裕子
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発行年度 |
2002 |
要約 |
黒ボク土はDNAを強く吸着するため土壌微生物DNAの直接抽出が困難であるが,吸着の競合阻害剤としてスキムミルクを市販のキットに適用することにより,土壌微生物群集の解析に使用可能なDNAを抽出することができる。
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背景・ねらい |
土壌や水など環境中からの微生物DNAの直接抽出は,培養を経ない微生物群集構造の解析や,特定遺伝子の検出など環境微生物研究において基盤となる技術である。様々な土壌DNA抽出法が検討されてきており,ビーズ振とうによる微生物の物理的破壊を基本とした手法が,簡便で多量のDNA抽出が可能であるため幅広く適用されている。しかし,日本の畑地等面積の大部分を占める黒ボク土は,従来法ではDNAの直接抽出が困難であり,このことが黒ボク土における微生物生態研究の大きな妨げとなっている。そこで,黒ボク土からのDNA直接抽出法の確立を目的とする。
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成果の内容・特徴 |
- 0.2Mリン酸ナトリウムバッファー(pH8)抽出液を使用するビーズ振とうによる土壌DNA抽出キット,Fast DNA SPIN Kit for soil(Q-BIOgene)を用いた場合,日本各地から採取した黒ボク土のうち2種のみからDNA抽出が可能であり,他の土壌からはDNAは検出されない(図1)。また,農環研畑圃場の黒ボク土では,1gの土壌に対し1mgまでのDNAが吸着される。黒ボク土においてDNA抽出が困難な原因は,土壌への微生物DNAの吸着である。
- 上記黒ボク土を用いて,DNAの土壌への吸着を競合阻害するような物質としてスキムミルク,あるいはRNAを抽出バッファーに添加すると,土壌からDNAが抽出される(表1)。また,日本各地から採取された黒ボク土に関しても,1gの土壌に対し40mgのスキムミルクを添加することによりDNAの抽出が可能になる(図1)。スキムミルク無添加でもDNA抽出が可能であった黒ボク土については,スキムミルク添加により抽出DNA量が増大する(図1)。
- スキムミルクの添加は微生物群集の解析に影響を与えない。すなわち,スキムミルクからはゲノムDNAは検出されず,特異的に遺伝子を増幅し,遺伝子の検出に用いられるPCRで細菌16SrDNAの増幅は見られない(表1)。さらに,スキムミルクの添加は土壌の細菌群集構造を示すDGGE(変性剤勾配ゲル電気泳動)パターンに影響を与えず,スキムミルクからの外来DNAの混入は無視できる。
- スキムミルク添加と比較して,RNAにより多くのDNAが抽出されるが,スキムミルク添加による抽出液がPCRに適している(表1)。
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成果の活用面・留意点 |
- 黒ボク土のように土壌へのDNAの吸着が著しい土壌について,スキムミルクの添加が土壌DNAの直接抽出に有用であり,このDNAは環境撹乱による土壌微生物群集変動の解析,組換え遺伝子や病原菌の遺伝子など特定遺伝子のPCR検出,遺伝資源としての土壌DNA中の有用遺伝子の探索等に適用可能である。
- 砂質土など従来法でDNAが多く抽出される土壌の場合,スキムミルクの添加が抽出DNA量の減少を引き起こすことがあり,その適用には濃度の検討等が必要である。
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図表1 |
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図表2 |
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カテゴリ |
遺伝資源
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