チャノコカクモンハマキの交信撹乱剤抵抗性系統の作出と抵抗性の要因

タイトル チャノコカクモンハマキの交信撹乱剤抵抗性系統の作出と抵抗性の要因
担当機関 (独)農業環境技術研究所
研究期間 2001~2005
研究担当者 野口 浩
杉江 元
発行年度 2003
要約 ハマキガ類の防除を目的とした交信攪乱剤(ハマキコンL)処理によりチャノコカクモンハマキに抵抗性が生じた茶園から本種を採集し,交信撹乱剤処理下で採卵,飼育を繰り返し,抵抗性系統を確立した。感受性,抵抗性両系統の雌雄の交尾行動を調査し,両系統間で雄の嗅覚能力に違いが生じていることを明らかにした。
背景・ねらい チャノコカクモンハマキの性フェロモンは4成分から成るが,そのうちの1成分だけを使った交信攪乱剤(ハマキコンL,成分:(Z)-11-tetradecenyl acetate)は1983年に農薬登録されたが,連年使用されていた一部地域で1995年頃からその効果が低下した。性フェロモンによる交信撹乱には抵抗性が生じにくいとされているので,これは世界的にも初めての事例であり,その原因については雌の性フェロモンの変化,雄の感覚器官の麻痺からの回避,さらには種の変化など多くの仮説が提唱されている。環境に影響の少ない害虫防除法として重要なフェロモン利用の将来を考える上で,この原因の解明は重要である。そこで,交信撹乱剤に対する抵抗性発現の要因の解明をめざし,抵抗性系統を作出し,抵抗性の要因を検討した。
成果の内容・特徴
  1. 抵抗性個体群の発生地から約6,000頭のチャノコカクモンハマキを採集し,これを用いて交信撹乱剤処理下で採卵,飼育を繰り返した。1996年には30μg/Lの処理で交尾を阻害できたが,44世代後には1mg/L処理でも半数が交尾する抵抗性系統を確立した(図1)。性フェロモン抵抗性系統個体群を育成したのは,世界で初めてである。
  2. 抵抗性系統を用いて,触角の交尾への役割を確認するため雄の触角を切除して交尾試験を行ったところ,触角一本を半分切除,一本を全切除,両方を半分切除した場合には処理しない場合と同様に70%が交尾したが,全切除した雄は交尾できなかった。
  3. 感受性および抵抗性系統の雌雄を交信撹乱剤処理下で経時的に観察した結果,歩行活動,求愛行動など全く同様で差異はなかったが,感受性系雄では求愛行動を行っている雌と接触しても交尾行動を行わなかった。
  4. 1mg/Lと10mg/Lの交信撹乱剤処理下で交尾試験を行った結果,感受性系雄との組み合わせでは交尾は行われず,抵抗性系雄と両系統の雌を組み合わせた場合には交尾が行われた。従って,抵抗性は雄に生じていると考えられる(表1)。
  5. チャノコカクモンハマキの性フェロモンで,最も量の多い成分である(Z)-9-tetradecenyl acetate は,抵抗性を生じさせた交信撹乱剤(ハマキコンL)には含まれていない。それにもかかわらず,今回作出した(Z)-11-tetradecenyl acetate抵抗性系統は,(Z)-9- tetradecenyl acetateを処理しても交尾阻害を起こさず,この成分に対しても抵抗性であった(図2)。
  6. チャノコカクモンハマキの性フェロモン組成(4成分)を持った剤で感受性および抵抗性系統を処理すると,両系統とも100μg/Lで交尾は完全に阻害され(図3),抵抗性を示さない。
成果の活用面・留意点
  1. 交信撹乱剤の作用機構や抵抗性発現機構の解明などにチャノコカクモンハマキ抵抗性系統を利用できる。
図表1 225366-1.png
図表2 225366-2.png
図表3 225366-3.png
図表4 225366-4.png
カテゴリ 病害虫 害虫 性フェロモン 抵抗性 農薬 フェロモン 防除

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