タイトル |
熱赤外リモートセンシングによる表面温度は土壌面CO2フラックスの広域評価に有効である |
担当機関 |
(独)農業環境技術研究所 |
研究期間 |
2001~2003 |
研究担当者 |
井上吉雄
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発行年度 |
2003 |
要約 |
渦相関法により測定した裸地期間の土壌面CO2フラックスは地中温度や土壌水分よりも熱赤外リモートセンシングにより得られる表面温度と密接に関係していることが判明した。広域観測が容易な表面温度による評価モデルはCO2動態の広域評価に有効である。
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背景・ねらい |
CO2等ガスフラックスはシンク・ソースが面的であるため,点計測データによるモデリングやリモートセンシングによる広域評価につなぐことが不可欠である。しかし,これまで炭素収支に関わる土壌呼吸研究においては土壌水分や地中温度など面的に観測しにくいパラメータについて日平均・月平均などの値を用いた相関が調べられているだけである。そこで,広域観測が容易なリモートセンシングデータとCO2フラックスの間に有用な関係を探索し,広域的かつ動的な変動評価法への道を開く。
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成果の内容・特徴 |
- 典型的な畑地生態系(つくば市;腐植質黒ボク土;炭素含有率3.7%, 窒素含有率0.31%;ダイズ-コマツナ-トウモロコシ-コムギの作付体系)において,微気象・植物・リモートセンシングデータおよび渦相関法によるCO2フラックスを多年次にわたり測定した。
- 全測定期間のうち作物根の呼吸がない裸地期間の土壌面CO2フラックスと気温・土壌等の環境要因の関係を1時間平均値に基づいて解析した結果,気温とは低い相関(r2=0.28)があり,土壌体積水分率(表層10cm)および地中温度(深さ5~10cmの平均値)とはほぼ無相関であったのに対して,リモートセンシングによる土壌表面温度との間には密接な相関関係(r2=0.64)が見出された(図1)。
- 土壌面CO2フラックスSSFCO2はQ10関数を用いた次式に土壌表面温度を用いることで,より的確に評価できる(r2=0.66, RMSE=0.098; 図2)。
SSFCO2 = a Q10 (TIR-20)/10 - b Q10は温度係数,TIRはリモートセンシングによる土壌表面温度,aとb は係数 Q10係数は1.45で拡散過程と生化学反応に対する値の中間程度の数値であった。微生物呼吸のポテンシャルを表す係数aは0.56であり,SSFCO2は約10 ℃で0に接近する。CO2フラックスと土壌表面温度はいずれも地中温度や気温に比べて速くかつ大きく変動しているため,CO2フラックスの動態評価にはリモートセンシングによる土壌表面温度の使用が有効である。 - 可視・近赤外リモートセンシングによって得られる植生指数NDVI(=[近赤外の反射率-赤の反射率]/[近赤外の反射率+赤の反射率])は裸地期間についての平均値が0.18±0.03 であった。これに対して植被がある場合のNDVIは,葉面積指数が0.5程度と小さい段階ですでに0.5に達する。このことからNDVI値を同時に利用することにより,上記評価式の適用範囲である裸地期間を判別できる。
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成果の活用面・留意点 |
- 生態系スケールの炭素収支研究においてリモートセンシングによる地表面温度の利用に関する種々の応用研究・モデル化研究に活用できる。
- 土性や有機物量が異なる場合など,モデルの一般化・高精度化に向けたパラメータの同定に関する検討が必要である。なお,裸地や疎な植被においては乱流輸送が卓越しており,従来のチェンバ法では本結果のようなダイナミックな変動の検出には制約がある点に留意する必要がある。衛星データ等では大気補正を要する場合がある。
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図表1 |
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図表2 |
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カテゴリ |
こまつな
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評価法
輸送
リモートセンシング
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