昆虫抗菌性ペプチド遺伝子の導入による細菌病抵抗性植物の作出

タイトル 昆虫抗菌性ペプチド遺伝子の導入による細菌病抵抗性植物の作出
担当機関 農業生物資源研究所
研究期間 1994~1996
研究担当者
発行年度 1994
要約  昆虫由来の抗菌活性ペプチドであるザルコトキシンIAは広い範囲の植物病原細菌に対し抗菌活性を示し、しかも植物細胞の増殖を阻害しない。このペプチド遺伝子をタバコに導入し発現させたところ、細菌病抵抗性を示す植物が得られた。
背景・ねらい  バクテリアによって引き起こされる細菌病は農業上重要な問題である。この問題に対処するに当たって、植物が積極的に病原細菌を殺菌してしまえる様な能力を遺伝子工学的に付与する事ができれば、一つの有用な技術になり得ると考えられる。そこで、本研究では昆虫から見いだされた抗細菌活性ペプチドの遺伝子を植物に導入する事で細菌病抵抗性植物を作出する事を目標として実験を行った。
成果の内容・特徴
  1.  ザルコトキシンIAはハエの一種から東大薬学部のグループによって見いだされた39個のアミノ酸よりなるペプチドであり、バクテリアの細胞膜に作用して殺菌効果を示す。このペプチドは植物病原細菌に対しても広い抗菌スペクトルを示し、しかも植物培養細胞に加えてみたところ、それ自体の増殖にはなんら影響を及ぼさない事が分かっている。
  2.  このペプチドの遺伝子を植物に導入・発現させる事によって細菌病抵抗性の植物が作出できないかと考え、双子葉植物用高発現プロモーター支配下で発現する様なキメラ遺伝子を構築し、タバコに導入した。その結果この遺伝子の発現が確認できた植物及びその後代が多数得られた。
  3.  これらの形質転換植物の細菌病抵抗性を検討するため、針を用いてタバコ野火病細菌(Pseudomonas syringae pv.tabaci)を接種した。図1及び図2はその結果の一部であり、接触後約十日経った接種部位である。このバクテリアは毒素を生産するため罹病部の組織が黄化し、更に感染が進行すると褐変壊死する。コントロールの未処理植物では図1の様に感染が進行しているが、形質転換植物では図2に示す様に、接種に用いた針の傷跡が残るのみで感染は成立していないと考えられる。
  4.  また、これらの植物に軟腐病細菌(Erwinia carotovora subsup.carotovora)を接種したところ、病徴の出現に明らかな差が認められた。更に葉の一部を切り出し、軟腐病細菌懸濁液の中でインキュベートしたところ、図3に示す様に軟腐症状の出現が形質転換植物では明らかに遅れ、本菌に対しても抵抗性である事が示された。
  5.  抵抗性を示した形質転換植物と、コントロールの植物を交配し、遺伝学的な解析を行った結果、強い抵抗性を示した植物はザルコトキシン遺伝子をホモで持っているものである事が分かった。これらの植物とコントロールとの交配で得られた次世代の植物は弱い抵抗性しか示さず、ゲノム当たりの遺伝子の数によって規定される発現量の差が抵抗性を示すか否かに関し重要である事が示唆された。
成果の活用面・留意点  今後、更なる抗菌性増強を目指したキメラ遺伝子の構築が重要である。また、本研究は実験植物であるタバコを対象に行ったが、他の農業上重要な植物への適用も考える必要がある。更にこの研究をアウトプットに繋げる為にはいわゆるパブリックアクセプタンスの形成が不可欠である。
図表1 226143-1.gif
図表2 226143-2.gif
カテゴリ シカ たばこ 抵抗性

こんにちは!お手伝いします。

メッセージを送信する

こんにちは!お手伝いします。

リサちゃんに問い合わせる