自家不和合性作物のS遺伝子型の簡易同定法

タイトル 自家不和合性作物のS遺伝子型の簡易同定法
担当機関 農業生物資源研究所
研究期間 1996~1997
研究担当者
発行年度 1996
要約 アブラナ科植物のS複合遺伝子座にある雌しべの自己認識糖蛋白質の遺伝子であるSLG及びSRKをそれらに特異的なプライマーを用いてPCR法で増幅し、4塩基認識の制限酵素で切断後アクリルアミドゲル電気泳動法で分析することにより、簡易にS遺伝子型が判別出来る。同様の方法でのS-RNase多型の分析により、リンゴ、ナシのS遺伝子判定も可能である。
背景・ねらい キャベツ、ハクサイ、ダイコンなどアブラナ科野菜の大部分の品種は自家不和合
性を利用したF品種であるが、親系統の選定に当たってS遺伝子の判定が必要
となる。S遺伝子は自家不和合性の花粉と雌しべの認識特異性を決定する遺伝子
で、多数の複対立遺伝子がある。S遺伝子は動物の血液型遺伝子と同様に表現型
が目に見えないため、その判別は容易でなく、これまでいくつかの生化学的判定
法が提案されてきた。しかしながら、いずれも分析に長時間を要する、費用がか
かる、高度な分析技術を要する、判別力が低いなどの問題があり、新たな方法の
開発が望まれていた。
成果の内容・特徴
  1. アブラナ科植物のS複合遺伝子座には雌しべの自己認識糖蛋白質の遺伝子であるSLG及びSRKがある。それぞれに特異的なプライマーを用いてPCR法でDNAを増幅し、制限酵素で切断後アクリルアミドゲル電気泳動法で分析することにより、簡易にS遺伝子型が判別出来る。
  2. SLG及びSRKの複対立遺伝子にはクラスIとクラスIIがある。クラスISLGの特異的増幅にはプライマーとしてPS5とPS15(表1)の組み合わせがよい。Brassica oleracea(キャベツ、ブロッコリーなど)の39種類のクラスISLG遺伝子のうち、31種類が特異的に増幅できる。増幅産物をMboIあるいはMspIで処理し、電気泳動分析することにより全ての種類が識別できる。クラスIISLGの増幅にはPS3とPS21(表1)がよい。このプライマーは、同時にSRKも増幅し、SLGに対する特異性は低いが、クラスIIは種類が少なく、Brassica oleraceaでは4種類で、それらのS遺伝子型は容易に識別できる。 
  3. SRKのキナーゼ領域にあるイントロンも変異に富んでいることが分かった。SRKの第2エキソンから第5エキソンをプライマーPK1とPK4(表1)で特異的に増幅し、AluIやHinfIで処理し、電気泳動分析することにより、大部分のクラスISRK遺伝子が判別できる。 
  4. SLGあるいはSRK単独の分析では増幅できないあるいは識別できないS遺伝子があったが、2つの遺伝子の分析を組み合わせることにより、全てのS遺伝子が判別できる。
  5. アブラナ科の他の自家不和合種であるBrassica campestris(ハクサイ、カブなど)Raphanus sativus(ダイコン)も同じプライマーを用いた分析によりS遺伝子型の判定が出来る。
  6. 同じ方法により、リンゴのS-RNaseの遺伝子に特異的なプライマーを用いれば、リンゴやナシのS遺伝子型の判定も可能である。
(図1)
(図2)
成果の活用面・留意点
  1. アブラナ科野菜におけるF品種の両親系統の育成過程で必要なS遺伝子の同定。 
  2. アブラナ科野菜の品種判別、F品種の純度検定、集団採種品種の個体判別。
  3. 同じ方法は、リンゴ、ナシのS遺伝子判定、品種判定にも応用できる。
[その他特記事項]
研究課題名:植物細胞における自己・非自己 認識機構の解明
予算区分 :省際基礎
研究期間 :平成8年度(平成7年~9年)
発表論文等:1) Nishio, T., M. Kusaba, K. Sakamoto, D. Ockendon (1997) Polymorphism
of kinase domain of the S-locus receptor kinase gene (SRK) in Brassicaoleracea L. Theor. Appl. Genet. 印刷中
2) Nishio, T., M. Kusaba, M. Watanabe, K. Hinata (1996) Registration of
S alleles in Brassica campestris L by the restriction fragment sizes of
SLGs. Theor. Appl. Genet. 92, 388-394
3) Nishio, T., K. Sakamoto, J. Yamaguchi (1994) PCR-RFLP of S locus for
identification of breeding lines in cruciferous vegetables. Plant Cell
Rep. 13, 546-550
4) 佐々英徳・西尾 剛(1995) バラ科果樹の自家不和合性遺伝子の多型性
 育雑 45、別冊2:325
図表1 226187-1.jpg
図表2 226187-2.jpg
図表3 226187-3.gif
カテゴリ ICT あぶらな かぶ キャベツ だいこん はくさい ばら 品種 ブロッコリー 分析技術 りんご

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