タイトル |
植物の環境ストレス耐性におけるプロトンの輸送と代謝の役割の解明 |
担当機関 |
農業生物資源研究所 |
研究期間 |
1997~2000 |
研究担当者 |
|
発行年度 |
1997 |
要約 |
植物細胞は必然的に細胞外に酸性環境を作り出すので、種々の環境ストレスによってプロトンポンプの機能が低下すれば細胞内酸性化を引き起こす。これに対する防御機構として植物に独特の解糖系、シアン耐性呼吸、乳酸発酵、アルコール発酵等の代謝が細胞内pH調節機構として機能する。
|
背景・ねらい |
植物細胞は細胞外から生存に必要な物質を取り込む細胞膜輸送機構としてATP駆動のプロトンポンプ が作り出すプロトンの電気化学ポテンシャル勾配を利用するので、必然的に細胞外を酸性化する。このため、種々の環境ストレスによってプロトンポンプの機能が低下すれば細胞内酸性化を引き起こす。従って、酸ストレスは植物にとって最も基本的なストレスであり、植物はこれに対する耐性機構として独特の細胞内pH調節機構を発達させたとみられる。本研究はこのような視点から、従来、細胞内pH調節機構として広く支持されてきたBiochemical pH-stat説(Davies 1986)の欠陥を明らかにし、さらに、過去10年位の間に取り組んできた低酸素ストレス、低(高)細胞密度ストレス、塩ストレス、リン酸輸送等の研究成果及び関連の国内外の研究報告を総合し、これに替わる新仮説を提唱する。
|
成果の内容・特徴 |
- DaviesBiochemical pH stat説(1986)の欠陥の解明。この説はそれぞれ至適pHをアルカリ側に持つPEPカルボキシラーゼ(PEPCase)と酸性側に持つリンゴ酸酵素(ME)がリンゴ酸の合成・分解を調節し、細胞質pHの調節を行うとするものである。実験事実をよく説明するので広く支持されてきたが、反応式上では両反応ともにプロトンの生成も消費も行わない。
- 新仮説では実際のプロトン生成はPEPに至るまでの解糖系の反応である。最近Plaxton(1996)は植物の解糖系の機構と調節方式が他の生物にない植物独特のものであることを指摘したが、これは植物の解糖系が本来的に細胞内pH調節に関係することを示している。
- 新仮説ではプロトンの消費反応は、従来、その生理機能が不明とされてきたシアン耐性呼吸である。すなわち、ME反応で生成するNADHとピルビン酸の内、前者が呼吸鎖で酸化されるときにプロトンの消費が起きる。ピルビン酸はシアン耐性呼吸の末端酸化酵素(AOX)の活性化に必須である(Hoefnagel
et al. 1997)。ミトコンドリアによる酸性領域でのリンゴ酸酸化がシアン耐性呼吸によることは以前から知られている(Rustin et al. 1980)。 - 従来、嫌気条件下の乳酸やエタノールの生成はグルコースに由来し、解糖系による継続的なエネルギー生産に必要なNADHの再酸化機構とされている。新仮説では乳酸やエタノールの一部はリンゴ酸に由来し、ME反応の産物であるNADHとピルビン酸から生成される。これらの反応はプロトン消費反応で、嫌気条件下でのpH調節機構であるとした。
- 新仮説ではPEPCaseとMEはそれぞれプロトン生成機構(解糖系)及びプロトン消費機構(シアン耐性呼吸)のmetabolic
triggerと位置づけられた。 - 以上をまとめて、新仮説「改訂された細胞内pH調節機構」(図1)を構築した。
|
成果の活用面・留意点 |
新仮説の検証。 仮説に基づくストレス反応の解析とそれに則った各種ストレス耐性付与の可能性の検討
|
図表1 |
 |
カテゴリ |
輸送
りんご
|