タイトル |
CAM型光合成植物の炭素代謝機構の解明 |
担当機関 |
農業生物資源研究所 |
研究期間 |
1999~2000 |
研究担当者 |
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発行年度 |
1999 |
要約 |
高度の乾燥環境適応を示すCAM型光合成植物では、炭素代謝の鍵酵素であるピルビン酸Piジキナーゼ(PPDK)の葉肉細胞における局在様式には、種間により著しい変異がある。これと関連して、リンゴ酸の脱炭酸機構にも違いがみられ、CAM型光合成は従来考えられていた以上に多様である。
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背景・ねらい |
CAM (Crassulacean Acid Metabolism: ベンケイソウ酸代謝)型光合成は、生化学的にはC4型光合成と類似しているが、単一種の細胞で光合成を行う点でC4型とは異なる。夜間に気孔を開きCO2をリンゴ酸として固定し、高温乾燥した日中には気孔を閉じて蒸散を抑え、リンゴ酸の脱炭酸とC3回路による炭素還元を行う。このため、砂漠化等の緑地保全の面から、CAM植物がもつ炭素代謝機構が注目されている。本研究では、PPDKの葉肉細胞内局在を免疫電顕法により解析することから、未だ不明な点が多いCAMの炭素代謝機構の一端を明らかにした。
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成果の内容・特徴 |
- 従来CAM植物ではPPDKは葉緑体に局在しているものと考えられていたが、5科14属25種のCAM植物の調査から、PPDKの局在パターンは、葉緑体に局在するもの(Chlt型)だけでなく、細胞質に局在するもの(Cyt型)や細胞質と葉緑体の両方に分布するもの(Cyt-Chlt型)があることが分かった(図1)。
- Chlt型はザクロソウ科とベンケイソウ科、Cyt型はサボテン科、Cyt-Chlt型はザクロソウ科、ベンケイソウ科、ディディエラ科およびリュウケツジュ科にみられた。また同じ属の植物は同じPPDK局在型を示した。
- 葉緑体型および細胞質型PPDKのいずれも酵素活性をもち、CAM機能の中で生理的な役割をもっているものと考えられた。
- PPDKの局在パターンと脱炭酸酵素活性の高低との間には相関がみられ、葉緑体に多量にPPDKを蓄積している種では、NADP-リンゴ酸酵素(ME)活性がNAD-ME活性に比べ高く、一方細胞質に多量にPPDKを蓄積している種では反対の傾向を示した。
- 以上の結果をもとに、3つのPPDK局在型における、リンゴ酸の脱炭酸から糖新生に至る炭素代謝経路(CAM型光合成のphase IIIにおける代謝経路)を提唱した(図2)。
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成果の活用面・留意点 |
既往のCAM代謝経路は、少数の植物についての結果から構築されたものであり、多様な変異の存在は見過ごされてきた。PPDKの活性調節や代謝産物の輸送等を解析し、3つの代謝系の制御機構を明らかにする必要がある。また本研究は、C3植物からCAM植物の進化を分子レベルで解明するための糸口となる。
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図表1 |
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図表2 |
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カテゴリ |
乾燥
輸送
りんご
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