タイトル |
細胞死に関わる葉緑体プロテアーゼ |
担当機関 |
農業生物資源研究所 |
研究期間 |
2000~2001 |
研究担当者 |
遺伝子修飾研)
岩井孝尚(分子遺伝部
光原一朗
大橋祐子(分子遺伝部 上席研究官)
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発行年度 |
2000 |
要約 |
細胞死の過程で発現が減少する遺伝子を単離したところ、葉緑体局在性 ATP 依存症プロテアーゼをコードしていた。組換え体実験からこのプロテアーゼは葉緑体の恒常性維持に必須であり、その量が減少すると細胞死が誘導されることが示された。
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背景・ねらい |
病原体感染による過敏感細胞死は、一種のプログラム細胞死であり、植物の典型的な抵抗性反応である。タバコモザイクウイルス(TMV)に感染したタバコがN遺伝子(TMVに対する抵抗性遺伝子)依存的に細胞死が引き起こされる系を用いて、この細胞死の機構を調べる。
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成果の内容・特徴 |
- N遺伝子が28℃以上の高温では機能しないことを利用して、TMV感染後高温におき、ウイルスを充分増殖させておいたタバコ葉を低温に移すことにより同調的に壊死を誘導させることができる。この系で壊死が起こる2-3時間前にその発現が急激に減少する遺伝子をディファレンシャルスクリーニングにより単離した。
- この遺伝子は、葉緑体に局在する亜鉛要求性のATPase活性を有するプロテアーゼをコードしていた。特異抗体を作り、この同調的壊死形成系における本プロテアーゼの変動を調べると、壊死の2-3時間前には急激に減少していることが明らかになった。
- これに先立ち、すなわち壊死の4-5時間前に、葉緑体の電子伝達速度が減り始めた。
- このプロテアーゼをより多く、またはより少なく含んでいる組換え植物を作ってTMV感染による壊死病斑形成に及ぼす影響を調べたところ、前者ではTMV増殖が促進され病斑が拡がり、後者ではTMV増殖が抑制されより小さな病斑ができた。
- このプロテアーゼをより少なく含んでいる組換え植物は、強光では生育できないが、より多く含んでいる植物は、正常に生育できた。
- これらの結果は、「通常、本プロテアーゼは葉緑体中に十分量存在し、強光下でできた不要タンパク質を分解するなど重要な働きをしているが、TMV感染やN遺伝子の影響でその量が減少すると、葉緑体の恒常性が保たれなくなり細胞死が誘導されるようになる」ことを示している。
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成果の活用面・留意点 |
本遺伝子の利用により細胞死を制御できる可能性があるので、特許を出願した(特許公開平11-253164細胞死を調節する方法)。
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カテゴリ |
たばこ
抵抗性
抵抗性遺伝子
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