幼若ホルモンエステラーゼを過剰発現させた形質転換カイコの成長特性

タイトル 幼若ホルモンエステラーゼを過剰発現させた形質転換カイコの成長特性
担当機関 (独)農業生物資源研究所
研究期間 2003~2006
研究担当者 塩月孝博
田村俊樹
譚安江
発行年度 2004
要約 幼若ホルモン(JH)の作用とその制御機構を解明するため、JH分解に関与するエステラーゼ(JHE)を過剰発現する形質転換カイコを作出した。酵母の発現制御系を応用したUAS-JHE/GAL4交配系を作出したところ、UAS-JHEとGAL4の両遺伝子を持っている系でのみJHEのmRNAとタンパク質が過剰発現し、3齢までは正常に成育した後、早熟変態や発育異常が起こった。このことから、胚発生から3齢への脱皮までの期間ではJHが必ずしも必要でない可能性が示された。
背景・ねらい 昆虫の脱皮と変態は、脱皮ホルモンと幼若ホルモン(JH)によって制御されており、JHの存在下で脱皮ホルモンが作用すると幼虫脱皮が誘導され、JH濃度が低下した状態で脱皮ホルモンが作用すると変態が起こるとされている。JH濃度を低下させる分解系の役割からカイコにおけるJHの作用と制御の機構を解明するため、胚期からJHEを過剰に発現する形質転換カイコを作出し、強制的にJH濃度を低下させた場合の胚発生、幼虫成長に与える影響を調べることを目的とした。
成果の内容・特徴
  1. 酵母の転写制御因子GAL4と蛍光マーカーDsRedの遺伝子(D)を持つ組換えカイコ個体と、標的配列UASとJHEに蛍光マーカーECFPの配列をつないだ遺伝子(E)を持つ組換え個体とをそれぞれ作出し、交配した。両遺伝子を発現している個体のみ、3齢になってから、致死、早熟変態、あるいは幼虫・蛹中間体などの発育異常が生じ、正常に4齢へ脱皮した個体はなかった(表1、図1)。
  2. 両遺伝子を発現している個体では、JHEのmRNAが胚、1齢~3齢幼虫の期間を通じて過剰発現し、同時に高いJHE酵素活性が認められた(図2)。過剰発現個体でも胚発生から3齢への脱皮までは正常に成長したことから、これまでの通説とは異なり、3齢への脱皮までは必ずしもJHを必要としない可能性を示している。また、蛹化システムは3齢以降に構築される可能性も示唆している。
  3. JHE遺伝子を過剰発現している個体の3齢での血液中JHE活性は、正常個体で最も高い活性を示す終齢(5齢)中期の8~10倍を示し、その結果として、血液中のJH濃度が低く抑えられているものと考えられた(図2)。
  4. これまで、JHアナログの投与で幼虫体内のJH活性を上げることはできたのに対し、低く抑えることは困難であったが、形質転換によるJHE酵素の過剰発現により、それが可能となった。この系は、昆虫の成長を制御する機構を明らかにする上で、重要な実験系となる。

図1

図2

表1
成果の活用面・留意点
  1. JHに対するカイコの感受性が変化する時期が3齢以降と特定されたので、その時期と各種昆虫成育制御剤の作用性を調べることで、JHの作用部位と分子作用機構が解明されると期待される。
図表1 226390-1.jpg
図表2 226390-2.jpg
図表3 226390-3.jpg
カテゴリ カイコ

こんにちは!お手伝いします。

メッセージを送信する

こんにちは!お手伝いします。

リサちゃんに問い合わせる
S