タイトル |
微生物共生のための初期シグナル伝達過程へのプラスチドの関与 |
担当機関 |
(独)農業生物資源研究所 |
研究期間 |
2000~2004 |
研究担当者 |
河内宏
今泉温子
川崎信二
村上泰弘
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発行年度 |
2004 |
要約 |
マメ科のモデル植物を用いて、根粒及び菌根を形成する際の初期シグナル伝達系の共通過程が欠損した2種の変異体Ljsym71と86の各原因遺伝子をポジショナルクローニングにより単離してそれぞれCASTOR, POLLUXと名付けた。CASTOR, POLLUXタンパクはヘテロ2量体としてCa2+イオンで制御されるイオンチャネルを構成すると考えられた。蛍光分析により、両タンパク質は細胞内のプロプラスチドに局在することが示された。
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キーワード |
根粒形成、シグナル伝達、プロプラスチド、ポジショナルクローニング
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背景・ねらい |
マメ科植物が根粒菌と根粒を形成することによって窒素を固定する能力は新生代になって獲得されたと考えられ、他の大半の植物には見られないものである。一方、菌根菌による菌根形成はより古い起源を持ち、被子植物の多くも特に内生菌根によりリン酸等無機塩類の吸収能を向上させている。マメ科のモデル植物として知られるミヤコグサでは100近くの根粒菌感染初期過程の変異体が得られているが、その多くでは菌根形成能も失われている。これらの変異の原因遺伝子は、共通共生経路と呼ばれる多くの被子植物に共通する共生成立のための基本的なシグナル伝達系を構成するものと考えられる。これらの遺伝子をゲノム分析の手法を用いて単離し、その機能を分析してこの過程の解明を試みる。
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成果の内容・特徴 |
- マメ科のモデル植物ミヤコグサで、平均インサートサイズ138kb・8.6ゲノム相当の高品位のゲノムライブラリーと、マーカー数1700に及ぶ高密度連鎖地図とを作製し、ミヤコグサでのゲノム研究の基盤を整備した。
- ミヤコグサの共通共生経路の変異体Ljsym71, 86の原因遺伝子がコードするタンパク質は、根粒菌感染の初期反応として重要なCaスパイキングのすぐ上流で機能すると考えられる。1.の成果を基礎としてそれぞれの原因遺伝子をポジショナルクローニングにより単離した。得られた両遺伝子は互いによく似た構造を示した(図1a)ので、CASTORとPOLLUXと名付けた。根粒・菌根の形成はどちらの変異でも共に阻害される。
- 両遺伝子はアミノ酸配列の分析から、好熱性メタン細菌のカルシウムによりK+イオンの透過性が制御される膜局在性のK+イオンチャネル(Mthk)と極めてよく似ていることが示された(図1b, c)。CASTOR, POLLUX両遺伝子の産物はヘテロ2量体としてイオンチャネルを形成していると考えられる。
- MTHKを元にして予測した立体モデルを比較したところ(図1c)フィルターと呼ばれるイオンゲート部のアミノ酸に差があり、透過を制御するイオンはK+とは異なると考えられた。
- 菌根しか作らないイネや、菌根も作らないシロイヌナズナにも類似の遺伝子が認められ(図1d)、実際に発現していることが示された。何らかの別の機能を果たしているものと予想される。
- CASTOR, POLLUXをGFPとの融合タンパク質としてタマネギの表皮やエンドウの根で発現させたところ、プロプラスチドにのみ局在することが示された(図2)。根粒形成過程に限らず、シグナル伝達の過程でプラスチドが積極的な役割を果たすことが示されたのは極めてめずらしい。
図1
図2
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成果の活用面・留意点 |
- 将来は、窒素肥料の過多や不足に起因する環境問題や農業問題の解決に寄与するほか、砂漠や荒れ地の緑化植物に根粒形成過程の遺伝子群を付与して窒素固定能を持たせれば、地球の緑化やCO2による温暖化の問題の解決にも寄与する事が期待される。
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図表1 |
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図表2 |
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カテゴリ |
肥料
シカ
たまねぎ
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