タイトル |
転移性因子によるアワのアミロース合成遺伝子の多様性と分子進化 |
担当機関 |
(独)農業生物資源研究所 |
研究期間 |
2001~2005 |
研究担当者 |
ジーンバンク
植物資源研究チーム
河瀬 眞琴
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発行年度 |
2005 |
要約 |
ユーラシア全域から収集されたアワ在来品種遺伝資源の解析から、胚乳でんぷんのウルチ性・低アミロース性・モチ性を支配するアミロース合成遺伝子には11種類の転移性因子の挿入が見いだされ、単一の遺伝子座に異なる地理的分布をもつ12種類の対立遺伝子型が生じ、東・東南アジアに特異的なモチ性や低アミロース性の在来品種が成立したという複雑な作物進化が明らかとなった。
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キーワード |
アワ、遺伝資源、アミロース合成遺伝子、転移性因子、作物進化、モチ性
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背景・ねらい |
アワはユーラシア全域で古くから栽培される1年生2倍体の禾穀類で、各地に明瞭な地域品種群が成立し、作物進化研究に好適な材料である。野生祖先種の胚乳でんぷんはウルチ性であり、栽培種でもウルチ性の品種がユーラシア全域で栽培されているが、東・東南アジアではウルチ性以外に、モチ性(アミロースをほとんど含まない)や低アミロース性の在来品種が伝統的に栽培され、それぞれ異なった方法で利用されている。本研究では、この形質を支配しているアミロース合成遺伝子に着目し、その多様性と分子進化を解析することによってアワの系統分化を明らかにすることを目的とする。
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成果の内容・特徴 |
- アワのアミロース合成遺伝子の多型を、Long PCRによる挿入配列の有無や長さの違いに基づいて12種類の対立遺伝子(Ⅰ型~Ⅹ型、Ⅳa型、Ⅳb型)に分類した(図1)。このうち、Ⅰ型、Ⅱ型がウルチ性、Ⅲ型、Ⅵ型、Ⅸ型が低アミロース性、Ⅳ型、Ⅳa型、Ⅳb型、Ⅴ型、Ⅶ型、Ⅷ型、Ⅹ型がモチ性で、低アミロース性やモチ性は多元的な起源をもつ。
- 世界各地のアワ在来品種871系統を調査したところ、各型の地理的分布には明瞭な独自性が見いだされた(図2)。Ⅰ型(野生型)のアワはユーラシア全体に分布し、野生祖先種とされるエノコログサ12系統(中国・韓国・日本・パキスタン・イラン)もすべてⅠ型である。Ⅱ型には挿入配列はあるが表現型に差違はなくウルチ性を示す。
- 挿入配列は11種類(TSI-1~11)見出され、相同性検索から転移性因子(トランスポゾンとレトロトランスポゾンの両者)と推定される。
- Ⅲ型、Ⅳ型、Ⅳa型、Ⅳb型およびⅨ型では第1イントロンの同一部位に、Ⅵ型とⅧ型では第12イントロンの同一部位に挿入をもつが、配列の長さがそれぞれ異なる。Ⅲ型、Ⅳ型、およびⅨ型は互いに相同な配列をもち、Ⅸ型のもつ挿入配列はⅣ型の挿入配列の一部を欠き、Ⅲ型はⅨ型の挿入配列に別の配列が挿入された構造になっている。Ⅴ型は第3エクソンにLTR-レトロポゾンが挿入され遺伝子発現がノックアウトされている。Ⅹ型はそのSolo-LTR型である。Ⅶ型は第10エクソンへのLTR-レトロポゾンの挿入である。なお、インドの在来品種の一部にⅡ型とⅥ型の座内組換え型が見いだされた。
- 塩基配列の解析からこの遺伝子の進化過程が推測できる。Ⅲ型、Ⅳ型およびⅨ型の成立には複数の可能性を想定できるが、Ⅰ型→Ⅳ型→Ⅸ型→Ⅲ型の可能性が高い。Ⅳa型とⅣb型はⅣ型にそれぞれ異なる短い配列が挿入されて生じたこと、Ⅵ型の挿入配列の中に別の配列が挿入されてⅧ型が成立したことなどが推測できる(図3)。
- Ⅴ型(Solo-LTRのX型も含む)のLTRの塩基配列を収集地の異なる6品種を用いて比較したが同一であった。また、Ⅶ型のLTRについても6品種を比較したが、同一であった。これらの挿入が古生物学的なスケールでいえばきわめて最近生じたことを示す。
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成果の活用面・留意点 |
- 供試したアワ遺伝資源は生物資源ジーンバンクに保存されており、利用可能である。
- 4種類のプライマーセットで対立遺伝子型を同定・評価できるが、Ⅳa型とⅣb型をⅣ型から識別するためには別のプライマーセットが必要である。
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カテゴリ |
あわ
遺伝資源
品種
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