タイトル |
1,2−シクロヘキサンジオンによる絹フィブロインのアルギニン残基の化学修飾 |
担当機関 |
蚕糸・昆虫農業技術研究所 |
研究期間 |
1994~1995 |
研究担当者 |
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発行年度 |
1994 |
要約 |
絹フィブロインのアルギニン残基の正荷電をマスクするために、ホウ酸緩衝液中あるいはアルカリ水溶液中で1, 2-シクロヘキサンジオンを用いた絹フィブロインの化学修飾を行った結果、化学的に安定で構造変化のない修飾物が得られた。
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背景・ねらい |
近年、絹フィブロイン蛋白質の物理化学特性を利用して、絹フィブロインをバイオ・医療材料に応用する研究が行われている。しかしながら、より幅広い利用のためには絹フィブロイン本来の特性を利用するだけでなく、構成アミノ酸残基の化学修飾によって絹フィブロインへの新しい機能付与を行う必要がある。本研究では構成アミノ酸残基のうち、正荷電を持ち絹フィブロインの細胞付着・増殖能に関与していると推定されるアルギニン残基に注目し、その正荷電を化学修飾によってマスクする方法を検討した。1, 2-シクロヘキサンジオン(CHD)はアルギニン残基と特異的に反応しその反応機構も知られているので、CHDを用いて絹フィブロインのアルギニン残基の化学修飾を行う。
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成果の内容・特徴 |
- 精練した絹フィブロイン繊維を9MLiBr水溶液に溶解し、透析して得られた絹フィブロイン水溶液を原料に用いて、以下の2つの反応条件でCHDとの反応を検討した。反応時間に対するアルギニン残基の修飾率の変化は、修飾前後の絹フィブロインのアミノ酸分析結果から求めた。修飾前後の絹フィブロインのFT-IR、CDスペクトルの測定を行い、修飾による絹フィブロインの構造変化も調べた。
- ホウ酸ナトリウム中37℃でCHDとの3時間の反応で、ほぼ完全にアルギニン残基が修飾された
(図1)。修飾絹フィブロインは原料に比べランダムコイル構造の増加が見られた。リン酸緩衝液(pH7.4)中での修飾絹フィブロイン膜の安定性を調べたところ、40時間で64%のアルギニン残基の再生が観測された(表1)。
- 生体内条件下でも安定な生成物を与える修飾法として、0.2N水酸化ナトリウム水溶液中室温でCHDとの20分の反応でアルギニン残基の50%が修飾され、2時間の反応で大部分のアルギニン残基が修飾された(図2)。また個体状態ではアルギニン残基のCHD修飾による絹フィブロインの構造変化は起きなかった。
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成果の活用面・留意点 |
アルカリ条件下CHDとの反応によって得られたアルギニン残基修飾絹フィブロインを細胞培養基質として用い、末修飾の絹フィブロインの細胞付着・増殖能と比較することで、絹フィブロインの細胞付着・増殖能とアルギニン残基の関係を更に解明する必要がある。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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カテゴリ |
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