農業における環境会計の開発研究

タイトル 農業における環境会計の開発研究
担当機関 評価・食料政策部
研究期間 2004~2006
研究担当者
発行年度 2005
背景・ねらい 本研究の目的は,一般企業で広く利用されている環境会計を農業に適用できないか,一般企業向けの環境会計をどのように改変すれば利用できるかを検討し,農業向けの環境会計を作成することである。
はじめに,他産業での利用を目的としたミクロ環境会計を農業へそのまま適用できない要因を分析した。次に,一般企業向けの環境会計をどのように改変すれば農業に応用できるかを検討した。そして,農業経営者に幅広く利用してもらうことを目的とした環境会計の作成を試みた。
成果の内容・特徴
  1. 農業への環境会計適用の検討
  2. 環境会計は一般企業で取り入れられているが,農業部門においては現在のところほとんど利用されていない状況である。この理由には,農業が他産業とは異なる三つの特殊性を持っていることが挙げられる。
    一つには,農業が自然と密接に結びついた生産活動を行っていることである。一般企業であれば生産過程における環境負荷の発生量なども工場敷地内,事業所内など明確に他と区別して計測することができる。ところが,農業生産活動は生産のための農地も自然の一部とみなすことができるだけでなく,動植物の成長という生産過程そのものが自然の一部であって,生産活動と自然との境界が明確ではない。さらに農業生産活動は土壌から地下水への化学肥料の浸透,大気中への農薬の発散など実に多様な側面で自然へ影響を与えている。これらのことは農業生産活動から発生する環境負荷をすべて正確に計測することが困難であることを意味している。
    もう一つの特殊性は,農業には多面的機能がある点である。農業生産活動は環境負荷など自然への悪影響だけではなく,植物による土壌・大気浄化,CO2吸収などの好影響も与えている。この多面的機能は他産業にはみられない農業特有の機能であり,環境負荷しか考慮していない一般企業向けの環境会計では,農業の一側面を捉えるのみに留まってしまう。
    最後に,農業経営は家族経営が大多数である点である。環境会計の作成にはある程度の科学的知見や専門的知識が必要となり,多くの費用と労力を必要とする。他産業でも中小企業には大企業ほど環境会計が普及していない状況を考えると,家族経営農家において独自に環境会計を作成することは困難だろう。
    では,農業において環境会計を導入する必要はないのだろうか。消費者の環境に対する意識は急速に高まりつつある状況を鑑みれば,自然と密接に関係して人々の食料を生産する農業分野においても環境への対応は早急に取り組むべき事項であろう。特に環境会計は,農家の環境保全活動を定量的に評価できるため,環境保全活動の有無だけではなくその程度も評価できるという特徴がある。また,前述のような特殊性があるとはいえ,農業においても他産業と共通の客観的な手法によって環境保全への取組を評価することが重要であることはいうまでもない。
    このようなことから,次に農業で環境会計を導入するためには既存の環境会計をどう改変すべきかを検討した。その結果,農業生産活動から発生する環境負荷を定量的に評価するのみでは,農家による環境保全の取組を正確に評価できないことがわかり,定量的評価とともに定性的な評価の導入が必要との結論に至った。しかし,定性的評価を導入すると,定量的な評価であるべき「環境会計」という名称では誤解を招く可能性があるため,本研究で開発する評価ツールを「農業環境活動チェックソフト(以下,チェックソフト)」と名付けることにした。また,農家の方々が少ない負担で簡単に環境保全活動を評価できるように,パソコンソフトの形とし,レーダーチャートを使用する,インターネットを通して農家に広める,環境保全活動の現状を視覚的に評価できるようにするなど,一般に理解しやすくするための工夫を施した。
  3. 農業環境活動チェックソフト
  4. 今回開発を進めているチェックソフトでは,稲作農家を対象とした。これは,稲作が主要な農産物であること,ほぼ全国的に栽培されていること,春に田植えを行い秋に収穫を行うなど一連の農作業がほぼ全国的に統一されていることなどから,全国の農家に広く使ってもらうためのチェックソフトを開発するのに適した作目であると考えたためである。
    チェックソフトは,基礎入力項目とStep1~3,そして結果の五つのパートから構成されている。いずれも第1図のような入力画面に該当する項目をマウスでクリックするか,キーボードで簡単なデータを入力する形式となっており,具体的には第1表に示される項目から構成されている。
    基礎入力項目は,農家の基礎的な生産情報から,現行の農業生産活動がどれだけ環境負荷を発生させているのかを計算し,農家のさまざまな環境保全への取組を点検する部分である。基礎入力項目では,水田面積,緑肥・たい肥の利用の有無,追肥回数など14項目を入力してもらう。Step1の質問項目は,農林水産省の『環境と調和のとれた農業生産活動規範』のチェック項目に準拠したものであり,農林水産省の定める環境保全型農業への取組有無のチェックにも利用することが可能である。全般的な環境保全の取組状況についてはStep2で問うている。Step3の項目は多面的機能のための取組を評価する「多面的機能編」である。ここでは,用排水路の管理の実施状況,景観作物の作付けの実施などのチェック項目から,個々の農家が多面的機能の増進のために,どのような取組を行っているかを評価する。
    評価の結果は,先に解説した質問項目の回答を元に指標化された値とグラフで示され,パソコンの第2図のように画面に出力される。第2図左側は,Step1~3の質問項目から得られた農業生産活動の総合評価の出力画面である。図中の八角形のレーダーチャートに折れ線が入り,農家は自らの農業生産活動がどのような状態にあるのかを視覚的に理解することができる。また,下のボックスは,各評価項目について現行の生産活動の良い点,悪い点を指摘し,悪い点を改善するためにはどのようなことが必要なのかといった示唆を与える部分である。
    また,第2図右側は基礎項目から計算された環境負荷量の計算結果の出力画面である。農家はこれらの出力画面から,自らの農業生産活動により発生する環境負荷量を把握することができ,削減すべき環境負荷の項目が何かを読みとることができる。
  5. チェックソフトの役割
  6. チェックソフトを利用することによって,農家は自らの生産活動によりどれほどの環境負荷が発生しているのかを物量単位で把握することができる。これまでこのような手軽な評価手法がなかったことから,農家が環境保全活動に取り組んでもその効果を明示的に示すことができなかった。今後,すべての農業が環境保全を重視した農業生産に移行してゆく状況のもと,農家が環境保全の取組の効果を自ら把握することで,効果的な環境保全の取組の促進にも資することが予想される。また,チェックソフトは環境保全活動への取組を定量的に評価することができるので,消費者や地域住民へ自らの環境保全活動を積極的にアピールすることができる。さらに,集落単位でチェックソフトを導入できれば,集落営農の環境保全の取組を客観的にアピールすることも可能となり,地域や組織の発展にも寄与することになろう。
  7. 今後の課題
  8. チェックソフトはパソコンに農業生産に関するいくつかのデータを入力することで,現行の農業生産活動による環境負荷量が計算され,環境保全への取組や多面的機能発揮への取組を簡単に評価・点検できるソフトである。しかし,現段階において未だ開発途上の段階にあり,評価のランクをどのように設定するか,農家がより操作しやすいものにできないかなど,完成するまではまだ解決しなければならない問題も多い。このようなことから,平成17年度末の段階においてソフトの公表は行っていない。残された問題への対応は来年度以降の課題とさせていただきたい。
図表1 228548-1.jpg
図表2 228548-2.jpg
図表3 228548-3.jpg
カテゴリ 肥料 病害虫 経営管理 シカ 水田 農薬

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