解け始めたイセエビ初期生態の謎とイセエビ増養殖への展望

タイトル 解け始めたイセエビ初期生態の謎とイセエビ増養殖への展望
担当機関 西海区水産研究所
研究期間 1995~1998
研究担当者 吉村 拓
小笹 悦二
清本 節夫
発行年度 1998
要約 イセエビの初期生態解明に取り組んだ結果、ようやく幼生中期から底生生活初期における様々な生態学的知見が得られてきた。途上ながら、幼生の移送過程から考えられる資源管理法、着底から底生生活初期における生態学的特性を利用した増殖場造成法、天然種苗の利用法に関して考察した。
背景・ねらい イセエビの年間漁獲量は1960年代後半の約1600トンから、近年およそ1200トンまで減少している。特に九州地区では、漁獲量全体に占める割合が、60年代後半の約50%から近年約20%へと大きく後退しており、その資源回復が求められている。しかしながら、孵化後およそ2年間の生態に関する生態が良くわからなかった上に、種苗生産技術も未完成であるため、漁獲量減少の理由が明確でない上に、漁業規制や若いエビ以降を対象とした人工礁の設置程度の対策しか取りようがなかった。沿岸資源研究室では、これらの問題に対処するため、孵化から約2年間における初期生態の解明に取り組むとともに、底生生活初期の生態学的特性に基づいた新しい着底礁の開発に取り組んできた。
成果の内容・特徴
  1. 幼生の移送過程と漁獲規制:
    西海区水産研究所調査船陽光丸を中心とした調査航海によって、沿岸で孵化した幼生は黒潮沖合域へ移送され、渦で構成されると見られる当水域で成長した後、最終期に再び黒潮主流域へ入り、プエルルスへ変態した上で沿岸に回帰するという移送過程の大筋が示唆された(図1)。これによれば、各地先で孵化した幼生がこの黒潮沖合域で混合すると考えられ、本資源の再生産に特定の地先個体群が寄与する可能性は少ないと考えられる。従って、産卵親エビの保護対策は、親エビの分布域全域において徹底することが求められる。
  2. 着底から底生生活初期の過程と着底礁:
    養育場における海藻の重要性が判明し、着底量や生残に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。このため、海藻群落の衰退は、本資源の減少要因になることが示唆された。底生生活初期は、岩礁表面の孔とその周辺海藻が重要な生息環境条件であることが判明したので、成長段階ごとの最適なサイズの孔を穿ったコンクリート製着底礁を考案した(図2)。野外試験の結果、海藻が繁茂すればポストラーバから体長92mmまでの小型個体が生息し(図3)、最高着底数4.6個体/m2・日、最長生息期間91日という期待通りの機能を発揮することが確認された。
  3. 増殖場造成法:
    当初は孔を隠れ場所とする稚エビは、体長45~90mmの期間中に親エビと同様の石の下などへ移動し始めることが判明した。従って、孔を持たない既設の礁では底生生活初期の稚エビが利用できないこと、逆にこのサイズ以上の稚エビは利用し得ることが示唆された。そこで、既設礁に本着底礁を加えれば、着底期から親エビまでの生息場を提供できる人工増殖場を少ない投資で実現できると考えられる。
  4. 養殖化・栽培漁業化への展望:
    着底後約20日間における減耗率が67%(表1)、また海藻がない岩礁域では着底が生じないか、あるいは着底後の減耗率がほぼ100%に近いことが示唆されたことは、種苗の放流ステージや放流場所の決定時に有益な情報となるだろう。また、この減耗分を養殖用種苗として利用するなどの検討も可能と思われる。
成果の活用面・留意点 幼生期の移送過程の大筋は見えてきたものの、浮遊生活期の全体像をつかむまでにはまだ長い道のりが想定される。少なくとも北緯18度以北という広域を調査対象としなければならず、水産庁の大型調査船を用いたさらに密度の濃い調査へと発展させる段階を迎えたと言える。着底礁では、海藻をいかに維持するかが残された課題である。現状では多孔式のブロックを投入するだけで効果を期待するには無理がある。設置後の管理や、海藻を確実に着生させる技術を検討する必要があるだろう。着底初期の大きな減耗率が推定できたが、さらに季節や水域を拡大した調査が必要である。海藻が大規模に消失すれば、イセエビ資源が深刻な打撃を受ける可能性が示唆され、各地で見られる磯焼けや海藻の異変には最大限の注意を払う必要がある。
図表1 229100-1.gif
図表2 229100-2.jpg
図表3 229100-3.jpg
図表4 229100-4.gif
カテゴリ シカ

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