タイトル |
マーカー遺伝子を用いて閉鎖された家畜集団の遺伝的性質を明らかにする |
担当機関 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所 |
研究期間 |
2006~2010 |
研究担当者 |
長嶺慶隆
高橋秀彰
韮澤圭二郎
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発行年度 |
2010 |
要約 |
マーカー遺伝子を用いることにより血統記録のない家畜集団においても近交係数の推定が可能であり、また遺伝子の多面的発現など複雑な働きが発見できる。
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キーワード |
マーカー遺伝子、近交、繁殖性、閉鎖群、多面的発現
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背景・ねらい |
マーカー遺伝子を用いることにより、血統が不明なほど古くからの閉鎖集団においても近交の程度が推定でき、またマーカーを用いることにより複雑な遺伝子の働きがわかる。その有効性を実証するため、数百年にわたり離島で閉鎖集団を保ってきた天然記念物の見島牛のマーカー遺伝子頻度を調べ、本土の集団から隔離された世代数と近交係数を推定し近交が繁殖性に及ぼす影響を明らかにする。また豚の閉鎖集団を用いて複数遺伝子座の1形質への作用、また1遺伝座が複数形質に働く多面的発現(Pleiotropy)を検証する。この研究により血統記録がない家畜集団においても近交の推定が可能となり、また重要な経済形質の遺伝的性質が明確になる。
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成果の内容・特徴 |
- 見島牛、黒毛和種、短角種、褐毛和種について21座位のマーカー遺伝子(DNAマイクロサテライト)の頻度を用い、見島牛が本土集団から何世代(年数)隔離されたかを推定し、これに基づき近交係数を計算する。また調査可能な期間(110年間)の産子数の変化も調査する。見島牛はヘテロ接合率が低く、逆にホモ接合体として固定化された座位が多く、群は長期間にわたり閉鎖群として維持されてきた(表1)。黒毛和種の遺伝子頻度を祖先集団と同様とすると、見島牛は22.6世代前 1778年頃、本土の黒毛集団と分岐したと推定される。この分岐時期は古文書による記述と矛盾しない。分岐以降の近交係数は0.6と非常に高かったが、110年間の雌牛当たりの産子数の推移に明確な減少傾向は見られない。
- 豚の閉鎖集団(ラージホワイト種)427頭を用いて2つの皮下脂肪厚(FA、FB)に関する遺伝子座(QTL)を第4及び第7染色体上で発見する。FAについて1QTLモデルから2QTLモデルに変えることにより、第4染色体のQTLに関する遺伝率は14%から17%へ、第7染色体のQTLについては18%から21%に向上する。2QTLモデルではQTLに関与する遺伝率が38%(=17+21)となり、2つのQTLが1形質に同時に関与していることがわかる(表2)。FBに関しても2つの染色体(2QTL)による遺伝率は23%(=9+14)となる。各々の染色体上においてFA、FBのQTLの位置がほぼ等しく、各QTLから推定される遺伝子効果の相関係数が0.9以上と高いことから、第4染色体及び第7染色体のQTL遺伝子は、どちらも2つの脂肪厚に影響を与える多面的発現(Pleiotropy)である。
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成果の活用面・留意点 |
- マーカーを用いることにより効率的な家畜の改良や希少な動物集団の維持ができる。
- 見島牛については今後も近交係数の変化を調査する必要がある。
- 豚については今後、より多くの形質についてマーカーの有効性を検討する必要がある。
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図表1 |
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図表2 |
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カテゴリ |
繁殖性改善
豚
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