タイトル |
複数年にわたる農業体験学習がもたらす教育的効果 |
担当機関 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター |
研究期間 |
2006~2010 |
研究担当者 |
室岡順一
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発行年度 |
2010 |
要約 |
同一児童の作文内容の経年変化をみると、複数年にわたる農業体験学習においては、社会性の効果が高学年で顕著に発現し、作物の形状変化や感覚への刺激を通じて作物の成長や作柄を実感する効果が毎年どの学年でも発現している。
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キーワード |
農業体験学習、作文、係り受け、小学校、教育的効果、児童
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背景・ねらい |
小学校における農業体験学習は、各学年6~8割の割合で実施され、特定の学年に限られた活動ではない。もし学校側が意図すれば、同一児童が複数年にわたって活動することが可能である。複数年にわたる活動を実践している事例を調査し、複数年の体験で新たに発現したり、毎年変わらず発現する教育的効果を明らかにする。
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成果の内容・特徴 |
- 調査事例の大阪市立N小学校は、毎年、全校児童が野菜の栽培活動をおこなっている。特に二学期には、なにわの伝統野菜「田辺大根」を毎年栽培する。2003年度に入学した全児童50数名に対し、3年生から6年生までの4年間、大根の収穫後に栽培活動を振り返った作文調査をおこなう。作文から係り受け関係にある単語の組み合わせを取り出し、複数年における出現パターンに着目して、約8,000組の係り受けを「新規出現型」「毎年出現型」「翌年消滅型」の3つの型に分類する(図1)。
- 新規出現型は、ある年の作文にはなく、その次の年に新たに出現した係り受けである。たとえば過去3年間になく6年生の時だけに出現した場合、約1,700組ある。この型の中には、同じ作物を同じ栽培法でおこなうという複数年の活動が累積されたことで、新たに発現した効果を示す係り受けが含まれる。そのような係り受けからソシオグラムを作成し、主な単語同士を線に沿って文章化すると、班長として「大変だ」が、下級生の「面倒」を見て思いやるという社会性の効果が発現している(図2左上)。
- 毎年出現型は、ある年の係り受けがその次の年にも出現する係り受けである。たとえば4年間連続して出現した場合、約400組ある。同じ係り受けが連続することは、複数年同じような活動をしても、その都度、同じような興味関心が更新されることを示す。この型は毎年変わらず発現する効果であり、ソシオグラムは作物を表す単語を中心とした放射状となり、作物の成長への驚き、栽培作業を示す単語が多い(図2右下)。
- 主要な教育的効果との関連をみると、新規出現型は、共に栽培する他者を認める効果や集団活動に満足する効果が該当し、高学年において社会性が顕著に発現する。毎年出現型は、全学年において大根の成長を実感する効果や感覚への刺激を通じて作柄を実感する効果が該当し、6)~7)の効果は既往研究で指摘がなかった効果である(表)。
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成果の活用面・留意点 |
- 翌年消滅型とは、次の年に消滅した係り受けであり、その原因として児童の成長に伴い興味・関心が消失した等が考えられる。
- 新規出現型には、教育的効果以外に年度特有の気象や行事の記述も多数含まれる。
- この調査は、同一児童集団の作文の経年変化を追跡する縦断(パネル)調査法である。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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カテゴリ |
伝統野菜
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