タイトル |
大気−植生−土壌系交換過程モデルによるメタンソースのシミュレーション |
担当機関 |
農業環境技術研究所 |
研究期間 |
1996~1999 |
研究担当者 |
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発行年度 |
1998 |
要約 |
水稲群落を対象とした大気-植生-土壌系モデル(SPAM-Rice)を構築して水稲群落と大気との交換過程のシミュレーションを行った。計算された群落内外の気温,CO2濃度やフラックスは,観測結果と良く合致した。CH4ソース分布を与えて計算されたCH4濃度分布と実測値との比較から,CH4の約半分は稲の葉鞘と稈の隙間を経て群落上部から放出されると推定された。
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背景・ねらい |
水田はメタンの主要な発生源であり,その90%程度は水稲稈の節の孔から放出される。しかし,群落内ではCH4濃度が低いためその放出機構を観測的に明らかにすることは困難である。本研究では,植生と大気との交換過程を反映した大気-植生-土壌系モデル(NEO-SPAM)を水稲群落に適用し,群落レベルのエネルギフラックスやCO2フラックスの実態を反映するモデル(SPAM-Rice)の構築を行う。そのモデルにCH4ソース分布を当てはめ,数値実験により得られる濃度分布と,観測される濃度分布との適合性からCH4フラックスの群落内部におけるソース分布の解明を試みる。
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成果の内容・特徴 |
- ダイズ群落用NEO-SPAMを水稲群落のシミュレーションモデルに発展させた。主な改良点は,水田の湛水層における熱収支とCO2ガス拡散の定式化,群落内外の熱収支計算式の改善(長波放 射成分),群落構造の差異による計算グリッド設定の変更である。
- 岡山大学付属農場で開花直前の2週間(1996年8月上中旬)にわたり観測された微気象,フラックス,濃度などのデータを用いてパラメ-タを設定した。パラメータのチュ-ニングは,まず晴天日日中について,次に早朝や夕方,そして夜間の順に行い,これらの条件で計算した結果が実測値と合うように調整した。設定されたパラメータは固定値として全計算に同じものを適用した。
- シミュレーションされた,群落内外の風速,気温,湿度,CO2濃度などのプロファイルは実測結果と良く合致した(図1,気温とCO2濃度)。
- 群落上の熱収支やCO2フラックスの日変化は,実測と良く合致した(図2)。
- 群落内外の濃度プロファイルやフラックスの日変化が,実測と数値計算とで良く合ったことから,SPAM-Riceは水稲群落におけるガス交換を再現できるモデルと判定した。
- 群落内のCH4ソース分布として,フラックスの10%は田面水から放出され,残りの90%は水稲の稈の節にある放出孔(節)の部位から群落内へ拡散する分布(Case1),放出孔から出たCH4は全て葉鞘と稈の隙間を経て群落上部付近から放出される分布(Case2),放出孔の部位と群落上部付近から半々に放出される分布(Case3)を設定した(図3)。
- それぞれのソース分布の場合に計算されるCH4濃度分布を,実測濃度分布と比較した(図3)。その結果,ソース分布Case3が最も実測分布に近く,CH4の約半分は葉鞘と稈の隙間を経て群落上部付近から放出されることが推定された。Case3はCSIROが実施したInverse Lagrangian ModelのCH4ソース分布結果とも概略合致した。
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成果の活用面・留意点 |
- 気流場の計算は,拡散係数を用いるモデルで行った。群落内下層の風速をより正確に再現するには高次クロージャモデルの適用が必要であり,モデルの改良を行う。
- 同様の群落構造の水田で任意の物質濃度プロファイルが観測されていれば,物質のソース分布推定に利用可能である。群落構造が異なる場合はモデルのパラメータ変更が必要。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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カテゴリ |
水田
水稲
大豆
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