タイトル |
昆虫病原性線虫Heterorhabditis属2種の日本における分布とその識別 |
担当機関 |
農業環境技術研究所 |
研究期間 |
1990~1995 |
研究担当者 |
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発行年度 |
1998 |
要約 |
Heterorhabditis 属の昆虫病原性線虫2種(H. indica およびH. megidis)の日本における分布を明らかにした。前者は南西諸島から福島県南部にかけての太平洋沿岸部,後者は東海・関東および長野県から検出された。両種は制限酵素断片パターンの比較によるDNA解析や感染態幼虫の形態により区別できる。
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背景・ねらい |
Heterorhabditis 属線虫は鱗翅目や鞘翅目などの様々な昆虫に対して高い殺虫活性を示し,生物的防除資材として注目されている。欧米では一部の種が生物農薬として既に実用化されているが,多くの国で土着種の探索が進められており,その利用が試みられている。日本では,生物農薬として欧米で利用されている種の導入・利用のための研究はなされてはいるが,本属の日本における分布および種が未知であったため,土着種の利用のための研究はほとんどなされていない。また,海外からの生物の導入に関しては,土着の生物相への影響が懸念される事例も起きている。ここでは,農業害虫の生物的防除における日本産本属線虫の利用に資するために,日本における分布および種類を明確にする。
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成果の内容・特徴 |
- Heterorhabditis 属線虫の検出にはハチノスツヅリガ幼虫を利用すれば,感染幼虫の外見から,他の線虫や寄生菌等の感染とは明確に判別できる(図1)。
- 日本産のH. indica とH. megidis の識別
- DNA解析
リボソームDNAのスペーサー領域の制限酵素断片パターン(図2)を,英国国際寄生虫学研究所の昆虫病原性線虫のデータベースと比較し,H. indica とH. megidis を同定した。
- 形態比較
本属線虫の形態による識別には,感染態幼虫の計測値データが重要であり,日本産2種は体長により区別できる(図3)。
- 体長の平均値が650μm以下(最小471μm,最大657μm)..........H. indica
- 体長の平均値が700μm以上(最小664μm,最大811μm)..........H. megidis
- Heterorhabditis 属線虫の分布(図4)
- 本属は関東以西の太平洋沿岸地域を中心に検出された。調査記録がある地域で,鹿児島以外の九州地域,島根,岡山,奈良,山梨,東京,新潟および宮城-山形以北からの検出記録は,現時点ではない。
- H. indica は南西諸島から福島県南部にかけての太平洋沿岸地域の海岸部から検出された。検出地は,海浜部の貧弱な草地から極相林まで多岐にわたっていた。世界的には,本種は熱帯・亜熱帯地域から広く検出されており,日本の分布記録は,北限となる。
- H. megidis は東海から北関東太平洋沿岸の温暖な地域および長野県の高冷地から検出された。検出地は,よく発達した林地であった。世界的には,本種はヨーロッパおよび北米の温帯・冷温帯地域から広く検出されており,日本の分布記録はアジア地域初記録である。
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成果の活用面・留意点 |
- 日本におけるHeterorhabditis 属線虫を農業害虫の生物的防除に利用するための基礎的データとして利用できる。
- 過去に日本に導入された経緯があるH. bacteriophora は感染態幼虫の体長の範囲がH. indica と重なるが,c値(体長/尾長)の平均値(前者が6.0以上,後者が5.9以下)によって区別できる。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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図表4 |
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カテゴリ |
病害虫
亜熱帯
害虫
生物的防除
データベース
農薬
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