土壌伝染性担子菌類の個体群構造は単純である

タイトル 土壌伝染性担子菌類の個体群構造は単純である
担当機関 農業環境技術研究所
研究期間 1994~1998
研究担当者
発行年度 1998
要約
土壌伝染性担子菌である紫紋羽病菌,白絹病菌及び雪腐黒色小粒菌核病菌の個体群構造は単純で,特定の系統(VCG, 細胞質和合性群)が,栄養的に成長して大きなパッチを形成している。優占的なVCGは,紫紋羽病菌では圃場ごとに異なるが,このようなVCGは,白絹病菌では局地的に,雪腐黒色小粒菌核病菌では広範囲に存在する。
背景・ねらい
ある種の担子菌は,同種内の異なる系統(VCG: vegetative compatibility group)間で混じり合おうとせず,双方のVCGは接触部で菌糸の細胞死を起こす。このような個体性のある菌においては,対峙培養することでVCGを容易に同定することができ,ある環境下における菌の個体群構造を解析することが可能である。

病原菌の個体群構造は,環境条件により変化することが知られているが,個体群構造を病害防除に利用する試みは,我が国ではイネのいもち病防除に多系品種を利用する以外,実用化されてない。本研究では,新しい生物防除法開発の可能性を探るため,個体性の明確な雪腐黒色小粒菌核病菌(Typhula ishikariensis ),白絹病菌(Sclerotium rolfsii ),および紫紋羽病菌(Helicobasidium mompa )を対象に,VCGによって識別される個体群構造を解析する。
成果の内容・特徴
  1. 供試担子菌は細胞質和合性が異なると,対峙培養したコロニー間に境界線を生じ,VCGを容易に区別することができた(図1)。
  2. リンゴ園における紫紋羽病菌の個体群構造は単純で,特定のVCGが大きなパッチ状に存在し(図2),全菌株の過半数を占めていた(図3)。果樹園間で共通なVCGは認められなかった。
  3. つくば市の4つの落花生圃場における白絹病菌の個体群構造は単純で,特定のVCGが圃場内に優占していた(図3)。また,遠く離れた地域間では共通のVCGは検出されなかった。
  4. 雪腐黒色小粒菌核病菌のある非常に優占的なVCGは,北海道の石狩平野以東に分布し,道東ではとくに高頻度に分離された(図3)。このVCGは,ゲノムDNA解析と交配和合性因子の解析から,栄養的に拡がった親系統とその自殖系統よりなると推定された。

以上は,これら土壌伝染性の担子菌類の同一圃場における個体群構造は単純で,同一遺伝的系統が栄養的な成長によりパッチ状に被害域を拡大していることを示す。
成果の活用面・留意点
  1. 紫紋羽病菌菌糸は,果樹園のリンゴ根系を伝って大きなネットワークを形成していると考えられ,このような個体群構造を示す病原菌に対しては,菌糸細胞中を伝播・増殖する菌類ウイルス利用による生物防除法が期待できる。
  2. 白絹病菌や雪腐黒色小粒菌核病菌は,菌糸が一年生でネットワークを形成しないので,他の生物防除法や耕種的防除法が適している。

図表1 235096-1.jpg
図表2 235096-2.gif
図表3 235096-3.jpg
カテゴリ 病害虫 いもち病 品種 防除 りんご

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