タイトル | 個別割当制の経済的影響 |
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担当機関 | (国研)水産研究・教育機構 |
研究期間 | 2012~2016 |
研究担当者 |
児玉工 |
発行年度 | 2017 |
要約 | 漁業管理手法の一つである個別割当制の漁業経営への効果を検証するため、べにずわいがにかご漁業とベニズワイガニ加工業を事例に、漁業者と加工業者の経営行動を分析した。その結果、制度導入がベニズワイガニの需要を減退させ、さらにそれが漁業経営にマイナスに作用していることが明らかになった。新たな漁業管理の導入に際しては、漁業者、加工業者等の経営にも注意を払う必要があると考える。 |
背景・ねらい | 漁業管理手法の一つである個別割当制の実証的評価では、これまで供給側の漁業者に焦点が当てられ、需要側の水産加工業者等に焦点が当てられることは少なかった。しかし、個別割当制の制度設計によっては、制度導入が供給側の変化を通して需要側に大きな影響を及ぼし、さらにそれが供給側に及ぶ可能性がある。本研究では、個別割当制の漁業経営への効果を検証するため、境港におけるべにずわいがにかご漁業とベニズワイガニ加工業を事例として、漁業者と加工業者の経営行動を分析した。 |
成果の内容・特徴 | 本事例における個別割当制は、輸入原料の喪失と減船によって、地元加工向けの原料供給の大半が失われた局面(2007年9月)で導入された。この時の個別割当の算定基礎は前年の漁獲実績の10%削減であった。例外的に割当が増える余地は残されていたものの、例外措置が漁獲量削減を完全に穴埋めするものではなかった(図1)。従って、こうした個別割当制の導入は、加工業者に原料の買入競争をもたらし、原料を十分確保できない業者には廃業、あるいは代替原料の使用という対応を迫ることとなった。 一方、漁業者側は、従来にも増して漁獲物の選別に注力することとなった。また、平均よりも割当が多い漁業者は1操業あたりの漁獲量を抑制し、平均よりも割当が少ない漁業者は操業回数を増やす行動をとり、個別操業に変容をもたらした。こうした漁業者側の行動の狙いとするところは、制限付きの権利を最大限利用した漁業利益の最大化にある。しかし、魚価向上を目的とした取組は、平均単価の推移をみる限りその効果は限定的であり(図2、3)、個別割当制導入による漁業経営への効果は見えづらい。これは制度導入が加工業者の廃業や原料転換を招き、前浜原料に対する需要を減退させたことによる。結果的に制度導入が供給に対してマイナスに作用しているのである。 |
成果の活用面・留意点 | 一般に漁業管理の経済的影響について供給側と需要側の両面から検討されることは少ない。しかし本事例は、漁業管理の導入にあたり、供給側だけでなく需要側の影響も考慮することの必要性を示唆している。 供給側と需要側の利害は一般に対立する。しかし、生産力を維持するため、両部門が話し合いを重ね、漁業管理と並行して各々の経営にも配慮した取組を協力して実施している産地も実際にある。新たな漁業管理の導入に際しては、経済的な影響にも注意を払い、影響が憂慮される場合には需給構造を安定化するための方策も合わせて導入する必要があると考える。 |
研究内容 | http://fra-seika.fra.affrc.go.jp/~dbmngr/cgi-bin/search/search_detail.cgi?RESULT_ID=7242&YEAR=2017 |
カテゴリ | 加工 経営管理 |