タイトル | 温度のわずかな変化がフタバガキ科林業樹種の葉の生産のタイミングを制御する |
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担当機関 | (国)国際農林水産業研究センター |
研究期間 | 2016~2020 |
研究担当者 |
小林正樹 谷尚樹 NGKevin Kit Siong LEESoon Leong MUHAMMADNorwati |
発行年度 | 2020 |
要約 | 東南アジア熱帯地域のフタバガキ科林業樹種の苗木では、わずかな温度変化に樹木が敏感に応答し、葉の生産量を増減させる。気温の異なる複数の地域に苗畑を設置し、成長の異なる苗木を利用できるようにすることで、適正サイズの植栽用苗木の安定生産が期待できる。 |
キーワード | 熱帯雨林 林業用苗木 成長 展葉 気候変動 |
背景・ねらい | フタバガキ科樹木は、東南アジア熱帯雨林の主要な構成樹木であり、重要な林業樹種である。持続的な林業経営には、適正サイズの植栽用苗木の安定供給が必要であるが、数年に一度だけ開花・結実し、種子の保存ができないフタバガキでは計画的な育苗が難しく、苗木の成長制御機構を理解し、適正サイズの苗木を安定生産する技術開発が求められている。そこで、成長の指標として葉の生産に着目し、苗畑での観測により得られた葉の生産量と環境条件の変化の因果関係を解析するとともに、人工気象器による操作実験を行うことで、フタバガキ科林業樹種の成長を制御する環境要因を特定する。 |
成果の内容・特徴 | 1.インターバル撮影が可能なカメラと気象測器を利用した観測システム(図1)によって、苗畑でのフタバガキ科林業樹種の苗木の葉の生産のタイミングを把握できる。 2.これまで雨量の変化が葉の生産量の制御に重要であることが報告されてきたが、観測システムを透明なプラスチックシートで覆うことで雨量の変化を排除し、毎朝夕二回、一定量の水を与えて苗木を育てた場合にも葉の生産量は明瞭な増減を示した(図2)ことから、葉の生産量の増減は必ずしも水分量の変化に起因するものではない。 3.一方、葉の生産量と気温の変化は似ており(図2)、因果推定法であるConvergent Cross Mappingによる解析では、6日間の時間差を考慮した葉数から気温に対する予測精度(cross map skill: 0.20)は、データ順を入替えたサロゲートデータに対する予測精度の95%分位点(0.18)よりも高く、気温が葉の生産を制御する可能性を示す。 4.フタバガキ科の一種であるNeobalanocarpus heimiiの50個体の苗木を用いた人工気象器による温度操作実験(湿度、光の強さ、灌水量は一定)では、低い生育温度(昼27C、夜24C)で栽培後、昼または夜の温度を5C高くすると、温度を高くした直後の葉の生産量が顕著に増加する(図3)。このことは、温度がフタバガキ科林業樹種の葉の生産のタイミングを制御する要因のひとつであることを示しており、異なる気温条件で苗木を育てると成長量が変化することが予想される。 |
成果の活用面・留意点 | 1.長期間にわたる観察や環境を制御した条件下での成長量の測定が難しい熱帯樹木の成長制御機構の解明に資する実験手法として有用であり、温度による成長制御機構の理解は、温暖化が熱帯樹木の成長に与える影響評価に活用できる。 2.気温の異なる複数の場所に苗畑を設置し、苗畑ごとの苗木の成長量を変化させ出荷時期を分散させることによって、適正サイズの苗木を安定供給するための方法として応用できる。 3.本成果は、水分が十分に与えられた条件での苗木に対する温度の効果を明らかにしたものであり、乾燥条件下などその他の環境要因との相互作用についてはさらなる検討が必要である。 |
図表1 | ![]() |
図表2 | ![]() |
図表3 | ![]() |
研究内容 | https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2020_c07 |
カテゴリ | 育苗 乾燥 経営管理 出荷調整 |