タイトル | リン欠乏水田でのリン施肥による水稲増収量は土壌リン吸着能から推定できる |
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担当機関 | (国)国際農林水産業研究センター |
研究期間 | 2017~2021 |
研究担当者 |
西垣 智弘 辻本 泰弘 RAKOTOSON Tovohery RABENARIVO Michel ANDRIAMANANJARA Andry 浅井 英利 ANDRIANARY Haja Bruce RAKOTONINDRINA Hobimiarantsoa RAZAFIMBELO Tantely |
発行年度 | 2021 |
要約 | マダガスカルに広く分布するリン欠乏水田において、リン肥料を施用した際のイネの増収量は、近接する圃場間でも大きく異なり、土壌のリン吸着能が高いほど低下する。 |
キーワード | 土壌診断 施肥管理 マダガスカル |
背景・ねらい | サブサハラアフリカに広く分布する風化土壌は、作物生育に重要な栄養素であるリンの供給力(リン含量)が低いため、作物の生産性向上にはリン肥料の施用が不可欠である。同地域の小規模農家の肥料の購買力は低く、作物の生産量や利潤を効率的に高めるためには、土壌診断に基づいて施用効果の高い圃場へ優先的にリン肥料を施用することが求められる。土壌にはリンを吸着する性質(リン吸着能)があり、施用されたリンは土壌に固定されて作物に吸収されにくくなるため、土壌のリン含量だけでなくリン吸着能も考慮した施肥設計が必要である。しかし、サブサハラアフリカのリン欠乏土壌において、土壌のリン吸着能と作物の施肥応答との関係について定量的な知見は殆ど無い。本研究では、リン欠乏が広くみられ、農家の肥料投入量も極めて限られるマダガスカル中央高地の水田土壌を対象として、土壌のリン吸着能とリン肥料を施用したときのイネの増収量との関係を明らかにし、効率的なリン施肥を実現するための知見を得る。また、マダガスカル以外のサブサハラアフリカ地域においても得られた知見が適用可能かを検証するため、土壌リン吸着能を規定する土壌物理化学性も解析する。 |
成果の内容・特徴 | 1. 土壌のリン吸着能は、土壌とリン溶液(1,000 ppm P)を土液比1:5で24時間振とうした後、もとのリン溶液中のリン量に対する土壌に吸着したリン量の割合として算出する。 2. マダガスカル中央高地の土壌リン含量が低い水田において、リン施肥によるイネの増収量は、−0.4~2.1 t ha-1の範囲で同一村落内の近接する圃場間でも大きく変動し、その推定式は土壌のリン含量よりもリン吸着能を説明変数とするほうが高い決定係数(R2)を持つ(図1)。 3. リン肥料を施用した際のイネの増収量は、土壌のリン吸着能が高いほど低下する。栽培期間中の平均気温が22.2℃の村落では土壌リン吸着能が35%以上、同平均気温が20.8℃と比較的冷涼な村落では土壌リン吸着能が53%以上の場合に、リン施肥による増収が見られなくなる(図1)。 4. 土壌リン吸着能は、結晶化しておらず原子配列の規則性がない非晶質アルミニウム含量によって強く規定され、非晶質アルミニウム含量が高いほど土壌リン吸着能も高くなる(表1)。 |
成果の活用面・留意点 | 1. 土壌のリン欠乏が問題となる地域において、施肥効果の高い圃場を施肥前に把握できることから、農家がリン肥料を優先的に施用する圃場を選別するための指標として活用できる。 2. 非晶質アルミニウムを含み土壌リン含量が低い土壌は熱帯地域に広く存在することが知られている。本研究で得られた知見は、マダガスカルに限らずサブサハラアフリカ地域に広く適用可能である。 3. 水稲以外の作物について本研究成果を適用できるかは検証が必要である。 |
図表1 | ![]() |
図表2 | ![]() |
研究内容 | https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2021_b09 |
カテゴリ | 肥料 水田 施肥 土壌診断 |