① 農業生物のゲノム解読の推進とゲノムリソースの拡充・高度化

課題名 ① 農業生物のゲノム解読の推進とゲノムリソースの拡充・高度化
課題番号 2014025631
研究機関名 農業生物資源研究所
研究分担 長村 吉晃
アントニオ バルタザール
宮尾 安藝雄
佐藤 豊
半田 裕一
菊池 尚志
小松田 隆夫
川東 広幸
水野 浩志
大野 陽子
小林 史典
山本 公子
安河内 祐二
上樂 明也
土岐 精一
廣瀬 咲子
土生 芳樹
宮原 研三
中山 繁樹
雑賀 啓明
協力分担関係 京都大学
横浜市立大学
日清製粉株式会社
研究期間 2011-2015
年度 2014
摘要 1.生物研で担当しているコムギ6B染色体を含め、21対の染色体ごとの概要配列解読が終了し、国際コムギゲノム解読コンソーシアム(IWGSC)として26年9月にScience誌に発表した。この概要配列情報は、マーカー作成など、育種分野を含むコミュニティーで広く利用されている。
2.コムギ6B染色体由来の約700個のBACコンティグ(染色体の91%をカバー)を6B染色体上に整列させるために、各コンティグをアンカーするマーカーを用いRadiation Hybrid(RH)マッピングを行った結果、653マーカーからなるRHマップが構築され、全体の87%をカバーするBACコンティグを整列化することができた。8,544個のMTP(Minimum Tiling Path)クローンの配列のアセンブルを行った結果、8,428個のBACクローンから11.7億塩基の高精度塩基配列情報を得た(BACクローン平均長:139kb、平均の配列コンティグ数:9個)。塩基配列に基づきクローン間の重複部分を調査したところ、短腕、長腕のMTPクローンのそれぞれ97%と98%の位置及び順番が正しいことが確認された。現在、スカフォールド配列の取得のため、MTPクローンDNAを用いたメイトペア解析を進めている。
3.Genotyping-by-Sequencing(GBS)によるゲノムワイドでハイスループットなコムギのジェノタイピング法を確立した。複数のRIL集団を用い、それぞれ3,000~4,500マーカーからなるコムギの高密度連鎖地図を構築できた。他の連鎖地図作成の結果と同じく、6倍体成立時に新たに加わったDゲノム染色体ではマーカー数が少ない特徴があった。以上の結果からGBSの有用性は確認されたが、全領域を網羅する連鎖地図の作製にはさらに改善が必要である。
4.イネ品種「カサラス」において、次世代シーケンサーを用いてメイトペア法による塩基配列の追加解読を実施し、コンティグ配列におけるスカフォールディングを行った。その結果6,999個のスカフォールドが形成され、その全長は373.7 Mbとなった。また、次世代シーケンサーによるインド型やアウス型イネ5品種と近縁野生種1系統の全ゲノム解読を新たに実施し、イネゲノム多様性情報の充実を図った。
5.コムギ品種「きたほなみ」にEMS処理により突然変異を誘発したM2集団(930系統)を栽培し、表現型の変異を観察した。各系統からDNAを抽出するとともに、全系統から目的変異体のハイスループットな検出手法を確立した。また出穂関連遺伝子について、各同祖遺伝子の欠失変異体選抜を進めたところ,出穂時期の明確な差が変異体間で観察された。
6.コーネル大学の研究チームとイネ完全長cDNAクローンを用いたイネインターラクトームプロジェクトを開始し、生物研から3,000クローンを送付した。これらのクローン構成、遺伝子発現の特徴を、Rice FRENDデータベースを用いてデータを収集し、Y2H実験結果の検証の準備を行った。
7.「コシヒカリ」のMNU処理による突然変異体リソースの開発においては、今年度250変異個体のNGSによるゲノム解読を実施した。また、1塩基変異(SNP)の変異箇所をより正確に検出する手法(検出精度98%以上)を確立した。本手法を用いてMNU処理によって1変異体に生じるSNP数を計測した結果、平均2,840箇所(1SNP/134kb genome)存在することが明らかになった。
8.作物育種における減数分裂期の組換え位置の特徴解明とその人為的制御技術の確立に向けて、「日本晴」x「カサラス」交配F2集団のゲノム塩基配列解析データから減数分裂期組換え位置を推定する方法について改良を行った。親系統及びF1個体の塩基配列解析結果からゲノム全域についてSNP検出のエラー率を推定し、この値を基にして解析するゲノム領域のサイズを順次狭めながら遺伝子型を推定していくことで、反復配列の影響を回避可能な組換え位置の推定を行った。総じてセントロメア領域周辺に組換え位置は検出されず、セントロメア領域以外のH3K9me2(不活性クロマチンに特徴的なヒストン修飾状態)に富む領域にも組換え位置が検出されない傾向が見られた。また、CHGメチル化に富む領域にも組換え位置が検出されない傾向が見られたが、活性・不活性両方の遺伝子に存在するCGメチル化については組換え位置との明確な関係は見られなかった。
9.Cas9、guide RNAから構成される人工制限酵素であるCRISPR/Cas9システムは、変異導入効率の高さ、発現コンストラクト作成の容易さから急速にその利用が広がっている。イネにおける標的変異導入に適したCRISPR/Cas9システムの検討を行い、変異導入効率が高いCas9、guide RNA発現コンストラクトを選定した。また、オフターゲット変異を利用した単一guide RNAによる多重遺伝子破壊や、複数guide RNAの同時発現による異なる遺伝子の同時破壊や大きな欠失変異の導入に成功した。さらに構築したCRISPR/Cas9ベクターは国内外の研究室50か所以上で共同研究を行い活用している。
10.ポジティブ・ネガティブ選抜による標的組換えとpiggyBacトランスポゾンの転移を利用したマーカー除去を組み合わせた点変異の導入系により、イネのCly1遺伝子座に閉花性を誘導する変異を導入することに成功した。昨年度の除草剤耐性を付与する点変異の導入に続く本成功例が得られたことで、標的組換えによる点変異導入系が、イネにおいて普遍的に利用可能な技術であることを示すことができた。
11.ソルガムの病原菌感染時における葉の病変に関わる遺伝子を、QTL解析及びトランスクリプトーム解析等を用いて同定した。その結果、病気感染時のオレンジ色から紫色にわたる色の違いは2つの色素の存在量比で決まること、第4染色体に座乗するflavonoid 3'-hydroxylase 遺伝子の発現量が色を決定することが明らかになった。また、ソルガムとスーダングラスの交雑後代、及びソルガム間の交雑後代集団を用いて、ソルガムの高収量性に関係するQTL解析を実施した。
12.オオムギにおいて、通常は領域限定が不可能な組換え抑制領域から遺伝子を単離する手法を開発した。Eceriferum (cer-zv)は、体表を蒸散等から保護する機能を持つクチクラ層組織形成に関わる遺伝子で、動原体近傍に座乗する。遺伝子連鎖地図、RNA-seq、突然変異体を組み合わせる新手法で遺伝子単離に成功した。cer-zvはクチクラの主成分の一つであるクチン(ポリエステルポリマー)合成に関わる新規酵素をコードしていた。
13.アブラナ科野菜の重要害虫コナガで、殺虫剤抵抗性発達機構の解明を進めた。BT剤(Cry1A毒素)の抵抗性系統「PXR」及び感受性系統「Sumika」から構築した解析集団(BC1) 92個体について、祖父母(祖母PXR,祖父Sumika)及び両親(父F1、母PXR)の個体とともに次世代シーケンサーを活用したRAD-seq解析を行い、連鎖地図の作成及びBT剤抵抗性の責任領域の同定を行った。
14.アワノメイガ属での食性進化と性フェロモン受容機構との関連性の解明を目指し、嗅覚受容体と匂い・フェロモン結合タンパク質遺伝子群の種間比較と発現解析を進めた。アワノメイガの性フェロモン受容体遺伝子の一つOfurOR1遺伝子構造を決定し、全部で8個のエクソンのうち第4エクソンの途中から第7エクソンまでを欠失していることが判明した。また、アワノメイガゲノム配列と染色体上の位置情報を統合するために、BAC及びfosmidクローンをプローブとしたFISH解析により、アワノメイガの全31染色体を網羅する地図を作成した。その過程でカイコにおいて過去に3回起きたと推定される染色体融合箇所を特定した。
15.26年度は生物研内から12件、所外から16件の依頼を受け、ゲノム解析支援を進めた。その内容はジェノタイピング、BACライブラリー作製・スクリーニング、配列解読(ゲノム、cDNA、BACクローン、メタゲノム、アンプリコン)など多様であり、データ解析などを含めて依頼者と打ち合わせをしながら行った。次世代シーケンサーによる解析については、保有している機器で解析が可能な依頼を遂行した。BACライブラリーについては、今年度遺伝子単離を目的として10件の作製を行った。
カテゴリ 病害虫 あぶらな あわ 育種 カイコ 害虫 除草剤 性フェロモン ソルガム データベース 抵抗性 品種 フェロモン

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