摘要 |
針葉樹一斉林の付加機能を高めるための森林管理手法の開発当年度の試験研究方法:1) 森林総合研究所構内の苗畑に、相対照度3、8、30、60%の被陰ハウス区と無庇陰区(100%)を設置した。苗木は3月中旬より播種・育苗し、6月中~7月中旬(苗高15~30cm)に各区に50数本づつ移植した。移植時に移植苗のサンプル20個体と10月上旬に各処理区の生育良好なサンプル10個体のサイズと各器官の重量測定をおこなった。また、9月上旬に葉サンプルの重量と面積を測定した。今年度はブナとイヌブナを解析の対象とした。2) 東海村村松海岸林の壮齢林(65~70年生)に3カ所の調査区を設定し、毎木調査をおこない樹冠投影図を作成した。それぞれの調査区内で相対照度を測定するとともに、全天写真を撮影し散光透過率を解析した。広葉樹の侵入実態は、植生被度の測定と全天空写真による散光透過率の解析を行った。3) 筑波山複層林試験地の100年生ヒノキ林で、複層林5林分の下木、及び帯状更新施業の更新帯1林分の個体(いずれもヒノキで約20年生)の幹の形質を毎木調査した。幹の形質は長さ3mの柱材1玉を生産目標とし、寺崎の樹型級区分を参考に3段階に区分した。4) 天岳良試験地のヒノキ-スギ人工林を試験地とし斜面上部、中部、下部にプロットを設定した。間伐後、各プロットにシラカシ20本、コナラ20本、ケヤキ20本、ムサシノケヤキ15~20本の苗木を植栽した。各プロットで全天写真を撮影し、光環境を解析した。当年度の研究成果:1) 相対成長率(RGR)は3%と100%区でブナがイヌブナより高かったが、それ以外ではイヌブナの方が高かった。純同化率(NAR)も3%と100%区でブナが高かったが、8-60%ではイヌブナが高いか同等であった。3%の低照度でブナのRGR、NARがイヌブナを上回ることは、林内でブナ芽生えの生存率がイヌブナより高いことと対応する。一方、イヌブナは、ギャップに対応する光条件(8~60%)でブナよりも成長が早いことを示していた。2) 調査林の植栽本数は10,000本/haであるが、自然間引きで立木本数は2,600~3,000本/haに減っており、上層樹高11~12m、胸高直径19~21cm、枝下高は6~9mと枯れ上りが進んでいる。胸高直径の5%上位木の形状比は55~57であるが、生存木全体の形状比は78~84と過密状態を示していた。調査区の相対照度は4~10%(測定時の裸地の照度:64~74 klx)であったが、全天写真による散光透過率は20%前後の値を示したため、次年度再測定する必要がある。一方、調査林分には高木性の広葉樹は少なく、灌木状態のコナラ、サクラ類が見られる程度であり、過密な林木の影響のためと推測された。3) 上木がRy0.68と混んだ複層林を別にすると、複層林の下木と帯状更新施業の更新帯の個体との間で幹の形質に大差はなかった。下木の形質を保つには年30cm以上の成長が必要と考えられ、それには林内相対照度を20~30%以上に保つ必要がある。この事例からは、林内相対照度を20~30%以上に保つ複層林施業であれば、帯状施業林施業、皆伐一斉更新施業との間に著しい木材生産機能の違いはないものと推定された。4) 斜面の上部(平坦)、中部、下部のギャップの中心で全天写真から推定した散光透過率は22、19、18%、直達光透過率は10、17、16%で、本斜面は南東向きのため斜面の直達光透過率が高かった(シミュレーションでも確認)。植栽されたシラカシは斜面上部、中部、下部で50、40、30%の枯死率を示したが、他の樹種ではほとんど枯死することがなかった。植栽当年度における地際直径の増加量は、全樹種とも斜面上部が一番大きかった。光環境と成長の関係は次年度に解析を行う。これらの成果から、針葉樹一斉林を多様化して付加機能を高めるための最適な樹種の選定、また下木の成長に最適な環境条件が解明され、とくに広葉樹下木の導入法に関する指針の作成が可能になる。
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