摘要 |
1990年代後半以降,韓国の対日野菜輸出が増加しており,今後見込まれる日韓FTA合意によって,その動きが加速することが予想される。本研究の課題は,こうした状況の背景にある日韓両国の野菜生産,流通構造を比較分析し,その特徴点を把握することにある。統計データや既存の研究成果の整理,および韓国現地調査により,韓国の野菜生産・流通構造を中心に以下の点を明らかにした。(1)生産動向:韓国の野菜生産量は1980年代以降,急激に増加しており,この拡大に最も寄与したのは施設栽培による果菜類生産である。韓国の施設園芸作は,2000年段階で施設農家数,施設面積ともに,わが国の規模を上回る水準に達している。しかし,韓国の施設野菜作は,90年代後半以降,主産地を含めた多くの地域で農家数が減少し,収穫面積も一部の地域で減少する傾向にあることから,生産拡大期から過剰基調へと転換しつつあるものとみられる。(2)種苗生産:韓国の施設園芸作拡大の背景には,良質苗を大量に供給する育苗産業の形成がある。一部の育苗企業は,日本への輸出も行っており,わが国の野菜生産との関連を深める側面を有している。(3)流通変化:韓国では,青果物流通の拠点整備として1980年代以降,公設卸売市場の整備が進められ,透明性と公正性を担保する上場競売制の導入が指向されたものの,これが後退し,過去の委託商市場(類似卸売市場)的な取引方法に回帰していった。こうした状況下において,野菜振興政策は従来の生産施設投資中心のそれからソフト事業を含めた流通対応施策へと重点を移している。産地組合が運営する産地流通センターの整備が進められ,実需者との直接取引を行う方向が指向される中で,産地商人-卸売市場を中心とした従来型の流通システムから複線型システムへの移行が進行している。
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