タイトル | 長距離移動性害虫の飛来源推定のための高精度後退軌道解析手法 |
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担当機関 | (独)農業・生物系特定産業技術研究機構 中央農業総合研究センター |
研究期間 | 2001~2003 |
研究担当者 |
大塚彰 渡邊朋也 鈴木芳人 Jimy Dudhia (NCAR) |
発行年度 | 2003 |
要約 | 気象の数値予報モデルと後退軌道解析モデルを用いて、3次元の大気場中で時間を遡ってウンカの移動を追跡し、長距離移動して日本に侵入するイネウンカ類の飛来源を高精度に推定できる。 |
キーワード | イネウンカ類、長距離移動、飛来源、後退軌道、数値予報モデル、 |
背景・ねらい | 水稲の代表的な害虫であるトビイロウンカ、セジロウンカなどは、主に梅雨期に中国大陸から長距離移動により日本に飛来侵入する。近年イネウンカ類の飛来量は減少傾向にあり,その要因として,飛来源における発生量の変動および長距離移動に関与する気象条件の変化が考えられており、飛来源の特定が重要となっている。また飛来源を特定することで飛来するウンカのバイオタイプや薬剤抵抗性などの遺伝的特性を知ることができ、防除対策に役立つ。これまで飛来源の推定手法には後退軌道解析が用いられてきたが、3次元の空間を移動するウンカを単一気圧面のデータを用いて解析していたために、飛来源を高い精度で推定することが出来なかった。そこで本研究では飛来源を高精度に推定するために、気象の数値予報モデルを用いてできるだけ正確な大気場を再現して後退軌道解析を行う。 |
成果の内容・特徴 | 1. 本手法は正確な3次元大気場をシミュレーションする数値予報モデルと、得られた大気場を用いて後退軌道を計算する後退軌道解析モデルとからなる。(図1)。数値予報モデルの出力が後退軌道解析モデルの入力となる。ただし後退軌道解析モデルで利用するのは3次元の風速データのみである。 2. 数値予報モデルは公開されている米国大気研究センター(NCAR)のMM5を用いる。 3. 数値予報モデルは過去の大気場を初期場として入力することができるため、1950年代以降の過去の飛来源推定が可能である。 4. 後退軌道解析モデルは中国大陸から日本にかけての領域で、1時間間隔の3次元の大気場を用いてウンカの後退軌道を計算できる。 5. ウンカは風と同じ速度で移動すると仮定している。 6. 任意の日時、場所を起点として、様々な高度から後退軌道を開始することができ、また終了時刻も任意に設定できる。 7. 解析結果は、3次元の後退軌道と終点の分布が得られる(図2)。起点高度ごとの終点分布を求めるなど3次元解析特有の高精度な解析が可能である。 8. 例えば1969年6月25日の飛来を解析した結果、その飛来源は福建省の沿岸部の水田地帯と特定された。この場合ネットトラップでウンカが捕獲された時間を起点とし、終点は遡って夕方または明け方の飛び立ち時間の内、捕獲数の時間変化を説明する飛び立ち時間を選択した。その結果終点に24日19時が選ばれ、上記の飛来源が特定された。 |
成果の活用面・留意点 | 1. 精度の高い飛来源推定を行うためには精密な起点の設定が必要であり、そのためには時間間隔の短いトラップ捕獲数調査などの観測が必要である。 2. 大気場の計算領域、時間間隔は任意に変更できる。 3. 本手法はFortranの開発・実行環境のあるUNIX、またはLinuxの計算機上で動作するが、短い時間で実行させるためには並列コンピュータが必要である。 4. 本モデルは農研機構との共同研究契約を結ぶことで利用できる。 |
図表1 | ![]() |
図表2 | ![]() |
カテゴリ | 病害虫 害虫 水田 水稲 抵抗性 防除 薬剤 |