タイトル |
イネの冷害低温シグナルを伝達する新規MAPキナーゼ経路 |
担当機関 |
北海道農業試験場 |
研究期間 |
1997~1999 |
研究担当者 |
今井亮三
大野清春
|
発行年度 |
1999 |
要約 |
イネの花粉形成期において低温雄性不稔が誘発される12~15℃程度の低温域で活性化されるMAPキナーゼ経路を発見した。本経路は4℃付近の低温とは異なった 新たな低温シグナル伝達機構に関与する。
|
背景・ねらい |
植物における生殖器官形成過程は低温による障害を受け易い。イネの花粉形成は特に低温感受性が高く、雄性不稔を引き起こすことによって受ける農業上の被害は甚大である。イネの花粉形成期における低温障害は12~15℃程度の低温域で誘発される。本研究では葯及び幼根を材料に用いて、12℃低温下における細胞応答の機構を明らかにする。
|
成果の内容・特徴 |
- cDNAサブストラクション法を用いて、4分子期葯組織において12℃処理により誘導される3種類の遺伝子を得た。この中の1クローンは MAP kinase kinase(MEK)をコードし、12℃低温特異的に発現誘導される(図1)。
- イネより3種類のMAPキナーゼcDNAを得た。このうちOsMAP1はOsMEK1と同様の発現誘導パターンを示し(図2)、OsMEK1の下流にあるMAPキナーゼと推定される。
- OsMEK1及びOsMAP1の発現は12℃で誘導され、4℃では誘導されなかった。イネの低温シグナル伝達に関与すると考えられるDNA結合タンパク質lip19の発現は4℃で誘導され、12℃ではされなかった(図1)。従ってイネにおいては、対象温度域の異なる少なくとも2つの低温シグナル経路が存在すると考えられる。
- 幼苗におけるミエリン塩基性タンパク質(MBP)を基質とするMAPキナーゼ活性は、12℃で顕著に活性化されるが、4℃では全く活性化されず、遺伝子の発現レベルの変化と一致する(図3)。以上よりMAPキナーゼを介する12℃低温特異的なシグナル伝達系の存在が明らかとなり、12℃低温域での形態・生理的変化誘導に重要な働きを持つことが示唆される(図4)。
|
成果の活用面・留意点 |
- 冷害発生温度と密接に関係する情報伝達系の遺伝子が取得された。本遺伝子の発現制御により耐冷性の向上が期待できる。
- 本遺伝子の下流遺伝子を解析することで、葯における低温誘導性の雄性不稔現象を分子レベルで解析することが可能になる。
|
図表1 |
|
図表2 |
|
図表3 |
|
図表4 |
|
カテゴリ |
凍害
|