針葉樹成葉のエイジングに伴う核ゲノム及び葉緑体ゲノム上の遺伝子群の発現調節

タイトル 針葉樹成葉のエイジングに伴う核ゲノム及び葉緑体ゲノム上の遺伝子群の発現調節
担当機関 森林総合研究所
研究期間
研究担当者 篠原 健司
福井 充枝
二村典宏
向井 譲
発行年度 1995
背景・ねらい 針葉樹成葉の寿命は一年生草本に比べはるかに長く、数年間光合成の機能を発揮し続ける。こうした針葉樹の特性に着目し、葉齢の進行に伴う光合成機能の低下など生態生理学的研究が進められてきた。しかし、光合成機能の低下の要因を探るために必要な各機能単位の構成成分やそれらを支配する遺伝子群の挙動など分子生物的研究は全くなされていない。そこで、針葉樹成葉のエイジングに伴う核ゲノム及び葉緑体ゲノム上の遺伝子群の発現調節について調べた。
成果の内容・特徴 光合成活性の最も高い初夏のクロマツから、葉齢の異なる当年葉・一年葉・二年葉を採取し、光合成の各機能単位の構成成分の含量とそれらを支配する遺伝子群(表)の発現量の変動を解析した。針葉あたりの当年葉のクロロフィル(chl)含量は一年葉や二年葉の約1/8であり、Chla/b比は葉齢とともに低下した。当年葉のチラコイド膜タンパク質量は一年葉の約1/6であるが、そのタンパク質構成に大きな変化はなかった。光化学系Ⅰ複合体やチトクロムb/f複合体の含量は一年葉で最も高く、二年葉では減少した。一方、光化学系Ⅱ複合体は葉齢に伴い増加し、二年葉で最も高かった。その結果、光化学系Ⅰと光化学系Ⅱの構成比は葉齢に従い減少した。この構成比の減少が、葉齢の進行に伴う光合成機能の低下をもたらす要因の一つと考えられる。
針葉あたりの総RNA量は当年葉で最も高く、二年葉では約50%に低下したが、rRNAの構成はほとんど変化しなかった(図1)。各々の遺伝子の転写産物の量的変動についてRNA量をそろえて解析すると、psbAとrbcLのmRNAは葉齢に従い増加したが、psaA/BのmRNAは減少し、cab、rbcS及びchsのmRNAはほとんど変化しなかった(図1)。針葉あたりの変化を比較すると、セネッセンスの始まった二年葉でもpsbAのmRNAのレベルは当年葉の90%であり、psaA/Bのレベルは当年葉の30%であった(図2)。psbAの転写産物のレベルの維持は代謝回転の速い光化学系Ⅱ反応中心を構成するD1タンパク質のレベルの維持に、psaA/Bのレベルの減少は光化学系Ⅰ反応中心を構成するP700アポタンパク質の減少と密接に関係している。このように、調べた遺伝子は葉齢により異なる発現調節を受けている。しかも、葉緑体ゲノム上の遺伝子の発現は葉緑体の発達段階により遺伝子ごとに調節されている。成熟過程の当年葉は活発なタンパク質合成を行うために必要十分なmRNAを保持するが、エイジの進行した二年葉でも十分なmRNAを保持し、正確な遺伝子発現の調節が営まれている。
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図表2 212406-2.gif
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