ヒノキカワモグリガの生命表の作成と密度変動

タイトル ヒノキカワモグリガの生命表の作成と密度変動
担当機関 森林総合研究所
研究期間
研究担当者 佐藤 重穂
牧野 俊一
発行年度 1996
背景・ねらい ヒノキカワモグリガEpinotia granitalisはスギやヒノキの内樹皮を食害する穿孔性害虫である。本種の食害痕は、黒く変色して材内に残るため、木材の経済的価値を低下させる(写真)。わが国の人工造林地の大半を占めるスギ・ヒノキ林の多くが主伐期をむかえるようになり、高品質材の生産を目指す上で、これまで重要視されていなかった本種のような穿孔性害虫による材質劣化が問題となってきている。害虫の生態や防除法を研究するために、卵から成虫にいたる各発育段階ごとの生存率を表した生命表を作成することが重要である。そこで、野外での6年間の調査結果から、ヒノキカワモグリガの簡便な生命表を作成した。また、密度変動について調べた。
成果の内容・特徴 熊本県矢部町の向原国有林内のスギ人工林に調査地を設定して、ヒノキカワモグリガの密度調査を行った。成虫については、本種の捕獲のために開発したライトトラップによって、1発生期を通じての捕獲数を調べ、それによって生息密度を推定した。雌成虫の産卵数、幼虫孵化率、初齢幼虫の生存率を調べて、それぞれのステージでの密度を推定し、同時に年度毎の終齢幼虫の生息密度を調査した。これらの結果から、ヒノキカワモグリガの生命表を作成した(図1)。
この生命表では、ヒノキカワモグリガは6年間とも、初齢幼虫の死亡率が高く、その後は比較的死亡率が低い状態で、卵から成虫に至るまでの生存率が2%程度で安定した状態を示した。死亡要因として、幼虫期にはゴミムシ類などによる捕食、寄生蜂による寄生、糸状菌の感染等、また成虫期にはクモ類による捕食が確認された(表1)。
成虫密度は、発生量が最大の年と最小の年とで約7倍の開きがあった。これは、昆虫の密度の変動幅としては非常に小さい。一般的に、密度が安定している場合、密度依存的な変動要因の働きが大きいことが考えられる。そこで、前年発生量に対する当年発生量の割合を世代間増加率としてみたが、前年発生量との間に有意な関係はみられず、密度依存的な変動はしていないと考えられた。また、終齢幼虫期の生存率も密度依存的ではなかった。
ヒノキカワモグリガの密度変動が安定している理由として、
  1. 幼虫がスギ・ヒノキの内樹皮という資源量の安定した餌を食べるため、餌不足に陥ることがないこと
  2. 幼虫が樹皮下に穿孔しているために、食葉性害虫のように外気に曝されている昆虫に比べると、直接的に気象的な変化の影響を受けにくいこと
などが考えられるが、まだ未知の点も多い。
ヒノキカワモグリガの生命表の作成と変動要因の調査によって、この虫の密度変動の性質を明らかにすることは、被害の発生動向を知り、防除や被害回避の対策を立てる上で重要である。
図表1 212438-1.jpg
図表2 212438-2.gif
図表3 212438-3.gif
図表4 212438-4.png
図表5 212438-5.png
図表6 212438-6.png
カテゴリ 病害虫 害虫 防除

こんにちは!お手伝いします。

メッセージを送信する

こんにちは!お手伝いします。

リサちゃんに問い合わせる