自殖率の高い樹種における近交弱勢の解明

タイトル 自殖率の高い樹種における近交弱勢の解明
担当機関 森林総合研究所
研究期間
研究担当者 中村 和子
石田 清
発行年度 1997
背景・ねらい 北海遺の樹木のなかでは、ホオノキが高い自殖率(自殖種子、すなわち自家受粉でできた種子の割合)を示す。一般に自殖由来の実生には近交弱勢(自殖由来の個体の生存率や成長率が他殖由来のものに比べて小さくなること)が現れる。このために自殖率の高い樹木の種子・実生には生存力・繁殖力の劣るものが多く含まれると予想される。自殖率の高い樹木の管理・保全法を確立するためには、近交弱勢の実態に関する情報が不可欠である。そこで、高い自殖率を示すホオノキ集団を対象として、胚~成木段階の生存率と実生の成長量に現れる近交弱勢の実態を調べた。
成果の内容・特徴 札幌市内の天然林のホオノキ5母樹で人工他家・自家受粉を行い、得られた種子を恒温器内で発芽させた。その結果、この5母樹由来の種子の発芽率には、他殖種子と自殖種子の間で差が認められなかった。しかし、2年目の種子の発芽率には有意な差が認められた(図1)。これは、種子が休眠期を過ぎるとその生存率に近交弱勢が現れることを示している。5母樹由来の種子のうち、発芽率が高かった4母樹由来のものについては、実生期の生存率は0.28~0.83であり、4家系中2家系で他殖種子の方が自殖種子よりも有意に高かった。しかしながら、他の1母樹では他殖種子が自殖種子よりも有意に低い値を示したことから、発芽種子の生存率を低下させる有害遺伝子の保有量は母樹によって異なると考えられた。当年生実生の樹高と葉面積に関しては、他殖種子が自殖種子よりも有意に大きい値を示した。発芽後2年目の樹高と乾重についても、他殖種子が自殖種子よりも有意に大きい値を示した(図2)。樹高・葉面積・乾重に関しては、近交弱勢の現れ方に母樹による明瞭な違いは認められなかった。実生間で競合が生じる場所では、樹高成長に現れる近交弱勢の影響で自殖種子の生存率が低下する可能性が高い。

札幌市内のホオノキ3集団(羊ケ丘・定山渓・簾舞)の他殖率(アロザイム3~4遺伝子座で推定した自殖率を1から差し引いた値)は0.10~0.46となり、他樹種の他殖率(大部分が0.7以上を示す)と比べて低い値となった。アロザイム分析で推定した種子~成木段階の生存率に現れる近交弱勢の大きさ(1-(自殖種子の適応度成分)/(他殖種子の適応度成分))も0.90~0.97と高かった(図3)。この結果は、発芽期以降に強い近交弱勢が現れ、自殖種子の大部分が成木になるまでに死亡することを示している。

以上の受粉・栽培実験及びアロザイム分析の結果からホオノキ集団の種子・実生には、生存力、繁殖力の劣るものが多く含まれていると考えられる。
図表1 212458-1.gif
図表2 212458-2.gif
図表3 212458-3.gif
図表4 212458-4.png
図表5 212458-5.png
図表6 212458-6.png
カテゴリ 受粉 繁殖性改善

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