大型哺乳類個体群に生息地構造が及ぼす影響の解明

タイトル 大型哺乳類個体群に生息地構造が及ぼす影響の解明
担当機関 森林総合研究所
研究期間
研究担当者 堀野 眞一
三浦 愼悟
発行年度 1998
背景・ねらい 日本に生息する大型哺乳類、特にツキノワグマの地域個体群の中には保全対策が必要と思われるものが少なくない。これらの個体群が急速な絶滅の危機に瀕している背景には人間活動の影響による生息地構造改変の結果としての個体群の分断と孤立化があると考えられ、早急な対策が求められている。しかし、保全施策のもとになる個体群絶滅危険性評価は十分行われておらず、特に量的な評価はまだ始まったばかりである。本研究では孤立個体群の代表である下北半島クマ個体群を対象とした個体群数値モデルを作成し、最少存続可能個体群サイズの推定と個体群存続可能性評価を行った。
成果の内容・特徴 下北半島のクマは現在約100頭と推定されている。また、クマ生息地の面積(約1000km2)から環境収容力を約200頭と推定した。この仮定のもとでシミュレーション実験により最少存続可能個体群サイズ(MVP)を求めた。MVP(Minimum Viable Population size)とは、今後一定期間(通常100年間)、一定以上の確率(通常95%以上)でその個体群が存続するために現在必要な最低限の個体数のことである。結果は約120頭となり、下北個体群はすでにMVPをやや下回っていることが分かった。

下北半島には比較的多くの自然林が残っているとはいえ、すでに失われた自然林も少なくない。現在も伐採が進行しているため、自然林の減少→生息地の縮小→環境収容力の低下という傾向が今後も続く可能性がある。そこで、環境収容力低下を想定したシミュレーション実験を行った(図1)。その結果、多少の環境収容力低下では存続確率の大幅な減少は起こらなかったが、環境収容力100頭では存続率が90.5%にまで低下した。もともと、環境収容力が200頭でもすでにMVPを下回っているのであるから、現在以上の生息地減少は避けなければならない。

下北半島ではクマ狩はほとんど行われていないものの有害鳥獣駆除によって年間平均数頭が捕獲されている。そのため、今後も狩猟圧がかかり続ける可能性を想定したシミュレーション実験を行った。現在の狩猟圧は死亡率の増加分6%にほぼ相当するが、それが今後も続けば存続確率は100年後わずか13.3%となり、絶滅はほぼ避けられない(図2)。クマ捕獲が前世紀以前から行われていたにもかかわらず現在まで下北半島にクマが残っているのは、かつては今より生息地が広く、また、他個体群との間に回廊があったためたと考えられる。しかし、生息地が狭まり回廊が遮断された現在、狩猟による個体群への影響は極めて大きくなっている。本研究の結果は、クマ個体群を早期に失う事態を避けるため狩猟圧の低減に向けて緊急に対策を立てる必要があることを示している。

なお、本研究の一部は環境庁・地球環境研究総合推進費「野生生物集団の絶滅プロセスに関する研究」による。
図表1 212473-1.gif
図表2 212473-2.gif
図表3 212473-3.png
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