人為撹乱に対する林床稚樹とササの生理生態学的適応能の予測と制御

タイトル 人為撹乱に対する林床稚樹とササの生理生態学的適応能の予測と制御
担当機関 森林総合研究所
研究期間
研究担当者 丸山 温
北尾 光俊
飛田 博順
森 茂太
発行年度 1998
背景・ねらい 北方広葉樹林の林床はササに覆われている場合がほとんどで、林冠を構成する樹種の稚樹の生存、成長は、上層林冠だけでなくササ群落によっても大きく影響を受ける。従って、ギャップ形成などの撹乱に伴う森林の修復過程を把握するためには、林床稚樹の環境応答を明らかにするだけでなく、林床に繁茂するササの特性も明らかにする必要がある。そこで、多雪地帯に分布するチシマザサとアカイタヤ、少雪地帯に分布するクマイザサとエゾイタヤについて、光合成などのガス交換能、強光に対する反応、水分特性などを調べ、環境変動に対する適応能を検討した。
成果の内容・特徴 チシマザサの光合成速度(Pn)の季節変化を調べたところ、開放地では、前年に展開した葉のPnは5月以降急速に低下したが、当年に展開した葉のPnは8月まで高く、5月までは前年葉、6月以降は当年葉により高い光合成生産を維持していた(図1)。林床では、上層林冠が閉鎖している間のPnは低く、上昇林冠に葉のない春と秋に有利な光条件を利用して光合成生産を営んでいた。すなわち、林床、開放地とも光合成能は葉の展開成熟直後と翌年の春季が高く、展開成熟時期の刈り払いが光合成生産の抑制に最も有効と考えられる。クマイザサとチシマザサのPnを比較したところ、開放地ではクマイザサが高かったが、林床では反対にチシマザサが高かった(図2)。また、クマイザサでは開放地が林床と比べて高かったが、チシマザサでは両者に差がなかった。気孔コンダクタンス(Gw)も同様の傾向を示し、光合成は主として気孔開度によって制御されていた。水利用効率(Pn/Gw)は開放地のクマイザサが最も低く、高い光合成を維持するために蒸散で大量の水を消費する。このことはクマイザサがチシマザサと比べて深く根系を発達させることの一要因と考えられる。

アカイタヤ、エゾイタヤの生理特性を調べた結果、アカイタヤはエゾイタヤと比べてしおれやすく、急激な環境変動に対する耐性が低いこと、アカイタヤは弱光域での光合成速度、気孔コンダクタンス、水利用効率が高く、林床の湿潤で暗い環境に有利な樹種特性を持つこと(図3)が分かった。これらのことから、海岸部で純林を形成するエゾイタヤは、ササの一斉枯死に更新を依存し強光や乾燥に耐えられる林冠構成樹であるが、やや内陸に生育するアカイタヤは、更新はササに制御されてはいるが、むしろ林床や疎らなササの下の穏やかな環境を利用して生育する一種のnurse plantと考えられる。後者のような樹種の更新を図る場合、撹乱による急激な環境変動は林床稚樹を消滅させるおそれがある。

なお、本研究は農林水産技術会議大型別枠研究「農林水産系生態秩序の解明と最適制御に関する総合研究」による。
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カテゴリ 乾燥 光条件

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